第九夜「クロマティック・ファンタジー」
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っ張ってみた。
―カラーン、カラーン…―
澄んだ鐘の音が屋敷の中から響き、暫らくして扉が開いた。
「どなた様でしょうか?」
出てきたのは、とても美しい洋装の女性だった。彼は一瞬、我を忘れそうになった。
「申し訳ない、突然お伺いして…。失礼だとは思ったんですが、竪琴の音が気になってしまったもので…。」
彼はそう言って、後ろ頭を掻きながら会釈した。
女性は口に笑いを浮かべ、そんな彼へと返した。
「そうでしたか。あの拙い竪琴をお聞きに…。お恥ずかしいことですわ。」
そう言うなり女性は一歩後ろへ退いて言った。
「わざわざお越し下すったんですもの。お食事でもご一緒して下さいませんか?使用人と二人暮らしですので、こういうお客さまは歓迎ですわ。使用人も二人分でしたら、腕を振るえるというものです。どうぞお入りになって下さい。」
そう言って中に招いた。
「い、いゃ、そういう訳には…」
彼は断ろうと思った。なにも、そんなつもりで来た訳ではない。出来たら、竪琴の奏者に会ってみたかった…それだけのことだった。
しかし、女性は口に手をやって笑いながらこう言った。
「そんなこと仰らず…。ディナーの後、宜しければ竪琴をお聞かせしますわ。如何ですか?」
この誘いは、とても魅力的なものであった。そして彼は躊躇いながらもそれに返した。
「そう言われるのでしたら、お言葉に甘えて…。」
彼は誘われるまま…館の中へ入って行ったのだった。
† † †
ディナーはとても素晴らしいものだった。こんな寂れた町には不釣り合いなご馳走が並んでいたのだ。
「フフッ、立野ったら久しぶりのお客様だからって、随分張り切ったようね。」
彼女はそう言って、口に手を当てて笑った。
「あのぅ…本当に申し訳ない。こんな贅沢な食事は初めてですよ。いや、実に美味しかった。お宅の使用人は、相当に腕が立つとみえる。このパンなんかは最高でした。この小気味良い触感は癖になりそうです。」
彼は実に満足そうに、使用人の手料理を褒めそやした。
「まぁ!立野が聞いたら大喜びしますわ。後で伝えておきますね?」
そう言って彼の前を見て、「あら?デザートはお召し上がりになりませんの?フルーツはお嫌いでしたか?」と、やや不安げな顔をした。
彼の前にはマンゴーやチェリモヤなどの南国フルーツや、一口サイズのケーキなどが並んでいる。
「いや、今はとても入りませんよ…。フルーツや甘いものは好きですが…。」
彼は腹を擦りながら、そう答えた。
「そうですか?ならば、竪琴をお聞かせすることに致しましょう。」
そう言って席を立つと、彼女は「持ってまいります」と部屋を出た。
「本当にいいんだろうか?こんな豪勢な食事を出してもらった上に、竪琴まで
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