第九夜「クロマティック・ファンタジー」
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たのだが、結局…竪琴の音は聞こえてこなかった。
―やはり空耳だったか…?―
彼は無理にでも尋ねるべきだった…。そう、無理にでも…。
† † †
翌日。昨日までの暖かな陽気とは打って変わって、春雨が降ったり止んだりする肌寒い日だった。
彼は仕事を終わらせ、疲れた体で車を走らせていた。
「そろそろ中盤だな。さっさと仕事に片が付けば、のんびりと温泉にでも浸かってリフレッシュ出来るというものだ。」
後二、三日もすれば目処が立つ。そうすれば、独り身の彼は早く帰る必要もなく、ゆっくりと休暇が取れる。会社もそれは想定済みだ。
その仕事帰りの道、ふと横道があることに気付いた。
「こんな場所に横道なんてあったか…?」
彼は不思議に思い、何となくその横道に入ってみたくなった。
横道に入ると舗装はされていたものの、殆ど使われていない様子だ。両脇には鬱蒼と生い茂る山林が広がっているため、どうやら山の方へ向かっているようだ。
「一体どこへ続いてるんだ?」
道はその先へと延々に続いている。だが、さっきから彼の車以外、一台も走っている車を見掛けることがなかった。
時計を見れば、時刻は宵の口を示していた。
「もう折り返そう…。」
そう考えた彼は、一旦脇に車を寄せて停まった。そして、ハンドルを切った瞬間…
―竪琴…!?―
近くで鳴っている…。彼はゾッと背筋に悪寒が走った。
―やっぱり幽霊なんじゃ…―
そう思い辺りを見回すと、後方に家の明かりが見えた。
―あんなとこに家が…―
少しホッとして、車をUターンさせた。
「もしや、あの家の人が演奏しているのだな?」
と、いう思いに至ったのだ。そう考えれば辻褄が合うからだ。
しかし、人とは面白いもので、自分の都合で現象を繋いでしまうもの…。
ねぇ、そうでしょう…?
† † †
彼はその家が気に掛かった。ゆっくりと車を走らせ、その家へと続く道が無いかと探した。すると、一本の細い道を見つけることができた。
しかし…それはとても車の入れるような道では無かったため、彼は仕方無しに傘を持って車を降りた。
「随分と雑草が生えてるなぁ…。まぁ、歩く分には平気か。」
そして傘を差し、彼はその細道に足を踏み入れた。
数分も歩くと、彼の目の前には大きな洋館が見えてきた。
「こんなとこに…こんな大きな屋敷があるなんて…。そんな話は聞いてなかったが…。」
訝しく思いながらも、彼はその洋館の扉の前までやってきた。
見ると、その扉はアンティーク風な木彫が施され、横には呼び鈴の紐らしきものが垂れ下がっていた。
時代錯誤な感じはするが、彼は折角ここまで来たのだからと、その紐を引
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