魔法覚醒
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ぼろぼろだった短刀にとどめをさしたのだ。
デイドラは冒険者とは言え、所詮は十四歳の少年。
絶対的に教養、戦略がなかった。
その状態で七階層に下りたつけは大きな代償になってデイドラに降り懸かったのだ。
深く懐に潜り込んでいたデイドラにキラーアントは離脱の隙を与えなかった。
絶え間無く迫る爪。
防具をつけていないデイドラにとってそれは全て致死の爪だった。
「ぐっ…………」
連撃に背中の短刀に手を伸ばすことも叶わず、短刀一本での防戦を強いられている。キラーアントの攻撃が決して速いわけではないが、短刀一振りでは、攻撃を凌ぐには全神経を傾けなければならなかった。
それが、彼に背後から忍び寄る影を気づかせるのに数瞬の遅れをとらせた。
だが、その数瞬はデイドラに再起不能の重傷を負わせるには十分過ぎる隙だった。
「がぁっはっ!?」
背後からの爪はデイドラの背に深々と紅い爪痕を残した。
初めての焼けるような激痛に、戦意どころか意識さえも半ば刈り取られ、デイドラは糸の切れた操り人形のように膝から崩れ落ちる。
(熱い。背中が熱い)
ぼわぁっと剥離していく意識の中、デイドラは背中を火に焼かれているような錯覚を覚えていた。
(あの時もそうだった)
それが深く閉ざしていた記憶を眼前に浮かび上がらせる。
炎に包まれ、火柱が立ち上る部屋。
その隅でただ無力に情けなくがたがたと震える自分。
時折揺らめく炎を中を横切る巨大な影。
絶えない悲鳴と怪物の喜鳴。
(これが走馬灯なのか)
脳裏をかすめていく、生々しい熱感や音声が付随した映像を見ながらデイドラは心のうちで呟く。
(ここで、死ぬのか…………)
その声音には死の甘受、生に対する諦念が滲み出ていた。
(元々長生きするつもりも、長い間生き恥を曝すつもりもなかったんだ。もっと道連れにしたがったが、もう十分だろう。天界にいる皆にも顔向けできる)
死を受け入れたことでデイドラの死が加速した。
その時。
「デイドラアアアアアアアァァァァァァッ!!!」
薄れて半ば虚無に呑み込まれた意識を聞き覚えのある声が繋ぎ止める。
(サラ…………じゃないな…………リズか……また間違えたか)
死の加速度も伴って減衰する。
(リズは俺が死ねば、悲しむのだろうか……………………テュールもノエルも悲しむのだろうか)
唐突に沸き上がったささやかな疑問に、未練の念が芽生える。
(だがもうそんなことは死にゆく今となっては些末事だ)
しかし、それは諦念に呆気なく呑み込まれる――その寸前。
――本当にそれでいいのか?――
わずかに
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