巻ノ四 海野六郎その十一
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「あえて力で挑みましたが」
「それでもやり方の一つじゃが」
「勝負においては」
「こうした時はな、しかし戦の場でより力が強いとわかっている者に力で挑むとじゃ」
「敗れそして」
「首を取られる」
幸村はそうなることをだ、海野に話した。
「そのことはわかっておいてもらいたい」
「畏まりました」
「しかし。これでじゃな」
「はい、決勝は殿とですな」
「あの入道殿じゃな」
三好清海だというのだ。
「御主が力負けするのじゃ」
「恐ろしいまでの強さです」
「力で勝てる者はおらんな」
「間違いなく」
負けただけにだ、海野もこう言えた。
「天下無双の剛の者です」
「そうじゃな、しかしな」
「勝たれますな」
「うむ」
確かな声でだ、幸村は海野に答えた。
「そうしてくる」
「ご武運を」
「では殿」
「殿が勝たれましたら」
穴山と由利も言って来た。
「餅と酒ですな」
「そうしたもので祝いましょう」
「実は拙者は酒ならな」
飲むのなら、というのだ。
「焼酎が好きなのじゃ」
「普通の酒よりもですな」
「そちらですな」
「そうじゃ、焼酎だと尚よいのう。しかしな」
ここでこうも言った幸村だった。
「あればそれで満足じゃ」
「酒があれば」
「それで、ですか」
「酒があり何故不足を言うか、いや不足を言うとな」
それ自体がというのだ。
「きりがない、不足は言うものではない」
「今ある状況で満足するかやっていく」
「それがよいのですな」
「贅沢も不平も言わぬ」
「そうあるべきだと」
「拙者はそう考える、贅沢はな」
幸村は己の考えを話していく、贅沢というものについて好きになれぬという考えをその顔にそのまま出しつつ。
「よくはない」
「あくまで質素に」
「そうして過ごされるべきですな」
「己が贅沢をするよりも書や刀、馬を買うべきじゃ」
こうしたものに使うことはよいというのだ。
「あるまで銭があるだけじゃがな」
「学び戦に使うもの」
「そうしたものに金を使い」
「食や酒にはですか」
「使うべきではありませぬか」
「最低限でよい、ましてや酒池肉林なぞはもっての他じゃ」
これこそが幸村が最も忌むものだった。
「そんなことをして何になる」
「美食美酒に美女を集め」
「遊興に耽ることはですか」
「殿は最もですか」
「忌み嫌われていますか」
「それは武士、民を預かり護る者のすることではない」
決して、というのだ。
「拙者はそう考える」
「ですな、武士は質素であるべし」
「贅沢をしてはならぬ」
穴山と由利も言うのだった。
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