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【銀桜】0.七夕篇
「七夕の夜はいつもより星が輝いてみえる」
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 鈴虫たちが合唱を奏でる夜の寺子屋。
 机の上の灯だけを頼りに、松陽は明日の夜の準備をしていた。
 すると縁側の方から物音がした。振り返ると、小さな影が襖の傍に立っていた。
 それは戦場で出会った銀髪の少年と共にいた銀髪の少女だった。
「おや双葉。何か用ですか」
 何かを言いかける双葉だが、声は出ず口を何度もパクパクさせている。
 上手く伝えられず焦り始める彼女の代わりに、松陽が先に答えた。
「眠れないのですか」
「……ごめんなさい」
「なら外で少し話しましょうか」
 僅かに微笑んで、松陽は俯く双葉を連れて縁側に並んで腰を下ろす。
 夜の涼しさで冷えないよう松陽は羽織っていた上着を小さな身体にかけた
 だが双葉はかかった上着をそれ以上身に寄せない。
 松陽に遠慮しているというより、怯えているようだった。
 僅かに肩を震わしてずっと俯いたまま。
「双葉」
 ドキリと震え、銀髪の少女は長髪の男性に振り向く。
「夏の夜空はとてもきれいですよ」
 松陽につられて双葉は同じように夜空を見上げる。
 すると空にはいくつもの星が1つに集まって、光輝く天の川が広がっていた。
 それはずっと下を向いていたら気づけない美しさだった。
 星空にしばし見とれていると、突然双葉の肩が大きく震えた。
「双葉、どうしたのですか?」
「星がパァっと光って空に落ちた」
 初めて見るものに目をまん丸にする双葉に、松陽は優しく語り始める。
「あれは流れ星と言うんですよ」
「ながれぼし?」
「流れ星に願い事を言うと叶うといいます」
「ねがいごと?」
「ええ。双葉は何かありますか」
 聞かれたことに答えようと、双葉は左右に首を傾げるが思いつかない。
「焦らなくていいですよ。明日また聞かせてください」
「あした?」
「はい。明日は『七夕』ですからね」
 また聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべる双葉。
 松陽は懐から細長い色紙を取り出した。
「『七夕』の日にこの短冊に願い事を書いて笹に飾ると叶うんです」
 差し出された短冊をおもむろに掴んで、双葉はまじまじと見つめる。
「明日の夜は皆さんと一緒にこれを笹に飾って祝います。楽しみにしてて下さいね」
 松陽はにっこり微笑んだ。
 だがその笑みに返ってきたのは、意外なモノだった。
「どうして……」
一つ二つこぼれた(しずく)で短冊が濡れる。
「どうして……あなたは…こんなこと…して…くれるんですか……」
 それは双葉の瞳から滑り落ちるいくつもの涙。
 すすり泣く声が短冊を握る手をギュッと強く引き締める。
「なんで…そんな表情(かお)…するんですか…」

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 足手まといだった。
 戦場に転がる屍から取れる食べ物はほんの少しだけ。
 兄を
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