「七夕の夜はいつもより星が輝いてみえる」
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お腹いっぱいにさせられない。
ずっと足を引っ張ってばかり。
だから兄はいつも怒っていた。
すれ違う人たちも冷たい眼で遠ざけるだけ。
それが当たり前だった。
……でもこの人はちがう。
ずっと笑ってる。
ここに来て知らないことばかり。初めて知ることばかりなのに
何を聞いてもこの人は教えてくれる。
とても暖かい笑みを浮かべて。
その度に心があったかくなる。
あったかくなるけど――
「ごめん…なさい……こんな時どうしたら…いいか…」
誰かに微笑んでもらったのなんて初めてだった。
こんなに心が暖かくなったのも。
だからわからない。
この微笑みをどう受け止めればいいか。
なんて返せばいいか。
どう接していいかわからない……。
「簡単です」
松陽はそう言って、双葉の瞳に溜った涙を指でそっと拭う。
「笑えばいいんですよ」
そしてまた優しく微笑んだ。
途端に双葉は松陽に抱きついて大声を上げて泣いた。
ずっとずっと胸の内に押しこんでいた不安を流すように。
その涙が止まるまで松陽はそっと頭を撫でつづけた。
しばらくして双葉は松陽と共に銀時が寝る部屋の前まで戻った。
襖を開こうと小さな手をのせるが、ふと松陽に振り返る。
「あの……」
「なんですか」
「わたしは……ここにいてもいいんですか」
不安げに双葉が尋ねる。
それを見かねて松陽は膝を落とし、双葉と同じくらいに目線を合わせた。
「双葉はここが好きですか」
そう聞かれた双葉はもじもじしながらも、今度は一生懸命口を開いた。
「……ここにいるととってもあったかいです。心があったかくなります。なんでそうなるか、わからないですけど」
本当に不思議だった。
心が暖かくなるのは、この人といる時だけじゃない。
寺子屋のみんなと過ごす中でもそうだ。
目つきの悪い少年に生真面目な男の子とここで知り合った子供たち。
みんなが笑うのを見れば見るほど心が暖かくなる。
「それは誰かと一緒にいて初めて感じるものです。私は人と人とが繋がる大切さを皆さんに知って欲しい思っています。今のあなた方には少し難しいことかもしれませんが」
「つながり?」
「ええ。それがあるから心が暖かくなるんです」
「でも、どうしてですか?」
「あなたはもうそれを知ってるはずですよ」
「え?」と首を傾げるが松陽は、いたずらっぽく笑みを浮かべ答えなかった。
* * *
教室は今日だけ折り紙とはさみで溢れかえっていた。
子供たちは折り紙を星や提灯の形に折り、楽しそうな笑い声が部屋に広がる。
その部屋の片隅で双葉は一人短冊を見つめていた。
――ここにいるとなんで心があったかくなるんだろう。
――
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