第2章 夜霧のラプソディ 2022/11
16話 実像の影
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無意味と………、伝えてください………、みんなを守って、………って………」
「え、守る………って、ティルネルさんは何か知ってるの!?」
あまりに唐突だった。頭痛に喘いだかと思えば、何かを瞬時に悟り、挙句には《みんな》というワードまで飛び出した。そこに至るまでのあらゆる議論や推論を排して、一足飛びに正答に至ってしまったような超然的な思考にヒヨリ自身が追いつけていない。というより、前述の護衛対象を指す呼称は他人に使うにはあまりにも親しげなものだ。これまでのティルネルの言葉遣いを考慮すれば、まず他者に使用することは在り得ないだろう。
ヒヨリは推測する。恐らくは、このエルフの女性が何らかの事情を知っていると。しかし、情報収集を続ける二人の目的を知っていれば、少なくとも情報収集が無意味であったという点だけはすぐにでも伝えられたはずだ。それをあえてその場で伝えなかったということだろうか。だとしたら何らかの思惑があるのだろうか。纏まらない思考をぐるぐると巡らせつつ、されど答えは導き出せない。
対するティルネルは、頭痛による痛覚か、まごつくヒヨリへの焦燥か、辛そうにしかめた表情をさらに強張らせて吼える。
「いいから、早くして!」
「ひぅッ!?」
穏やかな口調だったと思っていたティルネルに突如として怒鳴られ、状況を整理しようとしていた思考を放棄して、慌ててメールを外出中の両名に送信する。その一部始終を見届けたティルネルは、あたかも痛みに堪え切れなかったかのようにテーブルに上体を崩し、重力に従って滑るように床に転がった。糸が切れた人形の如く、僅かなりとも動かなくなる。
状況に追い付かず、ヒヨリの呆けたような声が漏れたのは間もなくのことである。
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