4部分:第四章
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のかわからない。
「どうしてここまで」
「どうしてとは?」
森川は少年を後ろに抱えながら尋ねる。
「その、村人なのに。只の」
「村人かどうかは関係ない」
森川はそれに応えて言った。
「わしはな、君達の為に働こうと誓ったからだ」
「僕達の為に」
「そうだ、だからこれ位はどうということはないんだ」
太く強い声であった。聞いているだけで安心できる。
「では家まで帰ろうか」
「僕の家までかなりありますよ」
「そういえばそうだったな」
「ええ、ですから」
降ろしてもらおうと思った。だが森川はその前に言った。
「ではそこまで行くか」
「えっ」
少年はその言葉に自分の言葉を詰まらせてしまった。
「そこまでって」
「他に行くところがあるのか?」
森川は逆に彼に問うた。
「ないだろう?じゃあそこまで連れて行く。安心しろ」
「はあ」
「今は足を大事にするんだ、いいな」
「わかりました」
その言葉にこくりと頷く。
「親御さんから貰い受けた身体だ。大事にしろ」
「・・・・・・はい」
思わず涙が出た。森川の心を知ったからだ。少年はそのまま家まで送られた。玄関まで辿り着いたところで彼は森川の足に気付いた。
「駐在さん、その足」
「何、大したことはない」
見れば森川も怪我をしていた。足をバッサリと切っていた。それは少年のものよりも深い傷であった。
「すぐに治る」
「すぐにじゃないですよそんなの」
少年は慌てて彼に言った。
「すぐに手当てしないと。そうだ」
慌てて家の中に入って行く。そこから水をたっぷりと入れた桶と奇麗な白い布を持って来た。
「これで。手当てして」
「済まないな」
「済まないのはこっちですよ」
少年はまだ慌てていた。だがもう森川の足の傷口を洗っていた。
「こんなことまでして頂いて。それで怪我まで」
「こんなもの昔から普通だった」
「普通とは?」
「怪我のことだ。ああ、いい」
森川は少年から布と桶を受け取った。そして自分で手当てをしながらそう言った。
「自分でやるからな」
「はあ」
自分で手当てをはじめる。そんな彼に少年はまた問うた。
「それで普通とは」
「怪我のことだ」
彼は言う。
「こんなのは普通だったのだ」
「そんな深い怪我も」
「看守の時もな。何かとあってな」
この場合は囚人達とのことではなく様々な作業だ。森川はそれも自分からやっていたのである。自分が汚れることを厭わなかったのである。
「それでだ」
「そうだったのですか」
「うむ、気にすることはない」
そう言って少年を落ち着かせる。
「これでわかってもらえたかな」
「駐在さんは凄い人なんですね」
「凄い!?わしがか?」
かえってこの言葉には戸惑いを見せる。
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