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義愛
3部分:第三章
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うのに」
「何もないとは」
「その。碌なものがありませんが」
 長老は少し怯えているようであった。
「貧しい村でして。生きていくのがやっとなのです」
「あの」
 森川にはその言葉の意味がわからなかった。首を傾げて尋ねる。
「一体何を話されているのでしょうか」
「賄賂です」
 長老は言った。
「それは」
「とんでもない」
 森川は賄賂と聞いて即座に憤慨の言葉を述べた。
「何故その様な卑しいことを私が」
「卑しいのですか!?」
 長老はその言葉を聞いて呆気に取られていた。
「!?」
「今までそんなこを言ったお役人は見たことがありませんが」
「まさか」
 森川はその言葉を疑った。
「その様なことは」
「清のお役人は皆そうでしたが」
「そうですか、清の役人は左様だったのですか」
 それを聞いて納得するものがあった。当時の清王朝は役人の腐敗が酷かったのだ。平気で賄賂を要求し、汚職を働く者が後を絶たなかったのである。
 だが森川は違っていた。彼はあくまで清廉であった。
「御安心下さい」
 そう言って長老を宥める。
「その様なことはありませんから」
「そうなのですか」
「清はいざ知らず我が国の役人はそんなことはありません。若しあれば私が捕まえましょう」
「何か。夢の様なのですが」
「いや、夢ではありません」
 さらに言う。
「この森川清治郎誓って貴方達を害することはありません。それを常に心に留めておいて下さい」
「わかりました。それでは」
 長老はにこやかに笑ってそれに頷いた。
「今後共。宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ」
 こうして彼は村の駐在として村に溶け込んでいった。それから彼はさらに村の中に入っていく。その中で思うことができていったのであった。
「わしはこの村人達の為に生きよう」
 そう決心したのだ。そして。彼はあることを行った。
 日本から妻子を呼び寄せたのだ。妻のちよと息子の真一を台湾に呼び寄せた。一家で台湾の為に、台湾の人々の為に尽くそうと決意したからである。


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