3部分:第三章
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
うのに」
「何もないとは」
「その。碌なものがありませんが」
長老は少し怯えているようであった。
「貧しい村でして。生きていくのがやっとなのです」
「あの」
森川にはその言葉の意味がわからなかった。首を傾げて尋ねる。
「一体何を話されているのでしょうか」
「賄賂です」
長老は言った。
「それは」
「とんでもない」
森川は賄賂と聞いて即座に憤慨の言葉を述べた。
「何故その様な卑しいことを私が」
「卑しいのですか!?」
長老はその言葉を聞いて呆気に取られていた。
「!?」
「今までそんなこを言ったお役人は見たことがありませんが」
「まさか」
森川はその言葉を疑った。
「その様なことは」
「清のお役人は皆そうでしたが」
「そうですか、清の役人は左様だったのですか」
それを聞いて納得するものがあった。当時の清王朝は役人の腐敗が酷かったのだ。平気で賄賂を要求し、汚職を働く者が後を絶たなかったのである。
だが森川は違っていた。彼はあくまで清廉であった。
「御安心下さい」
そう言って長老を宥める。
「その様なことはありませんから」
「そうなのですか」
「清はいざ知らず我が国の役人はそんなことはありません。若しあれば私が捕まえましょう」
「何か。夢の様なのですが」
「いや、夢ではありません」
さらに言う。
「この森川清治郎誓って貴方達を害することはありません。それを常に心に留めておいて下さい」
「わかりました。それでは」
長老はにこやかに笑ってそれに頷いた。
「今後共。宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ」
こうして彼は村の駐在として村に溶け込んでいった。それから彼はさらに村の中に入っていく。その中で思うことができていったのであった。
「わしはこの村人達の為に生きよう」
そう決心したのだ。そして。彼はあることを行った。
日本から妻子を呼び寄せたのだ。妻のちよと息子の真一を台湾に呼び寄せた。一家で台湾の為に、台湾の人々の為に尽くそうと決意したからである。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ