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狙撃手の心得
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いや、確かにバレットラインが出ていたのならまだ分かる。だが、狙撃手クラスにのみ与えられる唯一の特権。第一射弾道予測線非表示の絶対権を行使してまでのハズレだ。そりゃ苛立ちもするだろう、と彼女は他人事のように思った。

更にその後、窓の下に隠れたようだった相手を半ば不意打ち気味にフルオート射撃を敢行したが、死んだ気配というか手応えすらなかった。おそらくそれも避けられたのだろう。

天峨の持つヴィントレスは、設計時に要求された性能が『四百メートル以内から敵の防弾チョッキを貫通する完全消音狙撃銃』だったため、長距離での精密狙撃ではなく、中距離から短距離の狙撃、並びに近距離での銃撃戦を前提に設計されている。そのため、銃身長は比較的短く、20連マガジンを使ってのフルオート射撃も可能である。

今使い切ったマガジンを抜き、持って来たマガジンは計五つ。

予選の残りのことを考えると、ここで一つ使い切ったのは痛い、と。

時折スコープを除き、対象の動向を油断なく見張りつつ、彼女は冷静に現状を整理していった。

―――あの反応速度からして明らかなAGI寄りの能力構成(ビルド)。だとしたら長射程の重い武器は持てないはずだ。アイツがこの下にたどり着く前に確実に仕留めなければ。

指針を決め、何度目かのスコープを覗くと――――

「なッ!?」

ちょうどそこからは、対象である少年がフルオート銃撃にて抉り取られた壁の穴から全身を晒している姿が見て取れた。

気でもトチ狂ったのだろうか、と少し心配になりながら引き金に手をかける。バレットラインが視界内に色濃く表示されているのであろう少年のアバターはこちらに顔を向け――――引き裂くように嗤った。

その表情に一瞬だが薄ら寒いものを覚えた彼女は、そこで思わず瞬きをしてしまった。その一瞬で身を乗り出していた少年の姿は消えている。

おそらく今の行動はこちらの位置を正確に把握するためなのだろうが、依然自分に有利なのは変わりない。

上に行くメリットはないのだから、下に行っているのかも、と。

今しがた少年のいた踊り場の、一階下の窓に照準を合わせる天峨。

しかし――――

カツン、と。


()()()から音がした。


………………………………………………………………………………………………あ?

風だろう、というのが最初の現実逃避(しこう)だった。

でも、だけど。

()る。

確実に。

「なんッ……でよおォッ!!」

伏射体勢から強引にヴィントレスの銃口を向けようとする被食者(テンガ)に対し、幼い捕食者(しょうねん)

「遅い」

躊躇なく引き金を引いた。









密林独特
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