暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
GGO
〜銃声と硝煙の輪舞〜
狙撃手の心得
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と思わず腕組みをしそうになった少年は、ふと床に開いた弾痕に視線が吸い寄せられた。

ずいぶん派手に開けたものだ。たぶん貫通はしていないとは思うが、弾丸自体は相当奥までめり込んでいるはず。穴の淵の方からは亀裂が四方八方に伸び、その威力のほどが――――

「……ぁん?」

今、とてもおかしなところがあった気がする。

床?コンクリート?奥までめり込んだ?

ゾンッ、と。

背筋に冷水がブチまけられたような悪寒が走り、少年がなりふり構わず全力で床をけった直後。

()()()()()()()()()()無慮数十本のラインが数瞬前までへたり込んでいた空間を血のように赤く染め上げた。

数秒後に飛来した弾丸の群れが、硬いコンクリートの壁を削り取っていくのを見て、少年の口元に浮かんだのは――――

笑みだった。

―――あぁ、なんて運がいい。










「……なんてヤツだ」

天峨(テンガ)と呼ばれるプレイヤーは、覗いていた倍率の高いスコープから眼を外した。

少年が焦るビルの隣の――――そのさらに奥のビルの屋上。

風化しかけのひび割れたコンクリ―トで構成された平面体の上に腹ばいになりながら、短い髪を鬱陶しげに払いのける。別に視界の邪魔になったとかではなく、苛立った時のクセのようなものだ。それを自覚しているゆえに、天峨は自身が苛立っていると明確に分かった。

天峨は女性プレイヤーだ。

鳶色の髪と藍色がかった黒い瞳。しかしその容姿はGGOの範疇に漏れず、お伽の国のお姫様というよりはそれを守護する騎士団の中に混じったって違和感のないゴツい戦士のような体躯だ。

それでも通り一遍よりは若干スラッとしているが、そんな自己暗示をボディビルダー顔負けの分厚い筋肉がいとも容易く粉々に打ち砕いている。

別にこの姿にコンプレックスがあるわけではないが、それでも彼女には憧れがあった。

言葉も交わしたことないが、それでもただひたすらに追い求める一人の狙撃手が。

だから彼女は狙撃手になろうと決めた。追い越せなくてもいい。せめて、隣に建てるくらいの腕前に。ただそれだけを心の奥底にしまい込んで努力した。

その過程で手にした半自動消音狙撃銃(VSS)――――通称、ヴィントレスは今やしっかり彼女の掌に馴染み、本来の設計規格外である八百メートル規模での精密射撃を可能にしている。

だが、その自信も脆く崩れ落ちようとしていた。

そもそも。そもそもだ。

意識の外。

完全な視覚外から襲ってきた、ヴィントレス特有の9x39mm弾――――衝撃音の発生しない(サブソニック)弾を完全に回避するなど不可能だ。

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