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【SAO】シンガーソング・オンライン
異伝:自ら踏み外した崖へ 前編
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いつのことを、俺は覚えている。俺に「レッドの素質がある」と言った男だ。

 男は言う。
 これは遊びじゃなくてもゲームだ。だから俺達には楽しむ権利がある。
 プレイヤーの自由で誰かを殺したら、殺せるゲームにした茅場が悪いだけだ。
 なにより、お前はこんなにも楽しいゲームを終了させる気か。

 俺は、最後の一言に胸を穿たれた錯覚を覚えた。

 そう、この世界に終わって欲しくない。俺は心底それを願っている。
 こいつはそれを分かっていて誘っているのだ。確信があって、聞いている。
 ニタニタと笑うその男の甘言が、俺の脳を絡め取っていく。正体不明の毒に冒されていくように。

 なんて悪魔的な、なんて――魅力的な。
 俺は間違いなく、その言葉に心を揺さぶられた。

「返答や、如何に?」

 懐に手を突っ込んだまま、男は甘露のように甘い誘惑を俺にちらつかせた。

 俺は――その誘惑を想像して、決めた。

「魅力的だよ、正直。でも、一つ問題がある」
「何だ?友達か?それとも良識が拒むか?Hoom……下らない感傷だな」
「いや、もっと深刻でシンプルな問題だ」
「アぁん?……そりゃなんだ?」

 俺は――抱えていた剣を静かに構えた。

「俺、お前みたいな人間は生理的に無理だわ。気味が悪すぎてさ……犯罪プレイヤーになったら真っ先にお前を殺そうとすると思う」
「Oops!はっ、ハハハハハハハハハッ!!そいつぁ致命的だなぁオイ!!」
「だろ?だからな――死んでくれよPoH。お前が死んだら立派なレッドになれるから」
「惜しいなぁ……本当に惜しいぜ、レクルス」

 俺は、その男と――笑う棺桶が首魁、PoHと無謀にも一騎打ちをした。

 正直に言えば、俺は既に死に場所を探しに入っていたのだ。現実世界では死ぬのは周囲にやたら迷惑をかけるが、この世界ならばさくりと死ねる。死ねば現実世界のベッドの上で脳を破壊され、俺はひっそりと死ぬ。安楽死のようなものだ。
 ただ、どうせ死ぬのなら最後に……心臓を爆発させるほどスリリングで熱い冒険をしたい。
 俺は、その最後の冒険に、PoHとの一騎打ちを選んだ。
 ここは圏外の崖っぷち。曲がりなりにも攻略組で一線を張っていた俺と、SAOを恐怖に陥れた連載殺人者PoH。そんな二人が第一層の過疎地域で決着をつけるなど、なかなか面白い。

「イッツ……」
「ショウターイムッ!!」

 SAOという世界を別々の方向に心底楽しんでいる俺達は、激突した。
 
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