異伝:自ら踏み外した崖へ 前編
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耐久限界を迎えてポリゴン片となって消えてしまうものだが、その方が案外コーバッツさんに届くかもしれない。そんなことを考えた。
「ねぇ」
不意に、背後から声がかかった。
振り向くと淡い白の髪をなびかせる一人の少女がそこにいた。
どこか、このゲーム内でも浮世離れしたような純白のワンピースを着た少女だ。前に見た……サチという少女にどこか似ているような気がした。
多分、一層に籠っている子供の一人だろう。教会にこんな子はいなかったが、この場所にいるという事は墓参りだろうか。
「なんだい、お嬢ちゃん?ひょっとして邪魔だったかな?だとしたら申し訳ない」
「違う……貴方に会いに来た」
「………俺に?分かった、ちょっと待って」
この2年で、ギターを実体化させる操作だけはなんとか早くなった。選んだギターを抱え、俺は改めて彼女に向かい合う。俺に会いに来たという事は、ほぼ100%こういうことだ。ギターの重みを指で感じながら、こんな小さい子がわざわざ来るなんて珍しいと思った。
それでも歌う相手と場所は選ばない。石碑の前で歌ってほしいと頼まれたのも初めてではない。
「それで、リクエストはなんだい?」
「――もしも」
透き通った声で、旋律を紡ぐように彼女は言う。
「もしも自分の半身と言えるような存在が、崖から下へと落ちて行ってしまった時。貴方はそれを見捨てる?それとも、共に落ちる?」
「そこで助けるって選択肢がないのは何でなんだ……?」
「助けられないほど、既に落ちているから」
「そうか……」
怖い事聞くなこの子、と内心で戦慄しつつも、考える。
もしも俺のギターが――あるいは、ミスチルやイナズマが崖の下に落ちて行ったら。
俺は、ひとつの歌を歌った。
それが他の全てに代えがたいモノならば、それもいいと、珍しく思った。
コーバッツさんが死んでセンチメンタルになっているんだと自覚しながらも。
「〜♪〜……?あれ、いない……」
気が付くと、女の子は目の前からいなくなっていた。
彼女の望む歌じゃなかったのか、或いは飽きてどこかにいってしまったんだろうか。
客がいないのに一人で歌っていたと思うと若干恥ずかしいが、それだけ今の俺は駄目なのかもしれない。歌を歌うにはそれなりの心構えをしなければ、客にも失礼だろう。
「ん〜……やっぱ今日は駄目だな。ちょっと気分転換に美味いもん食いにでもいくか!」
ギターを仕舞い込んだ俺は、前に来た赤いおじさんの奨めてきたラーメン的麺の屋台へと向かった。
= =
殺しのスリルを味わいたくないか。
その日、第一層の崖の淵を眺めていた俺の後ろにやってきた男は、そんな趣旨ことを言った。
そ
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