異伝:自ら踏み外した崖へ 前編
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いような友達だ。それも別のクラスに行ってしまえばあっさり疎遠になるし、簡単に人の期待を裏切ってさっさと家に帰ってしまう。
どうしてもっと長く付き合ってくれないんだ?
何でそんなに家に帰りたがる。あんな何もない所に、どうして?
分からない。そんな連中と付き合うより、ネットの世界の友達の方がうんと付き合いがいい。
俺は次第に、現実そのものから疎遠になっていった。
やがて、その世界にのめり込み過ぎた俺は、とうとうあのゲームに――いいや、このゲームに手を出した。
ソードアート・オンライン。
ああ――そうだ、認めよう。俺は茅場がログアウトボタンを使用不能にした時、歓喜に打ち震えた。
俺はもう、あの空疎な家に帰らなくてもいい。ここでずっと遊び続ける事が出来るんだ、と。
だから、皆が必死になって現実世界へ戻ろうと足掻いてる姿は、理屈では理解していても個人的には理解しかねる。それでも友達の望みを俺一人の我儘で止めるのも悪いと思い、何も言わないでいた。
そしてボスが倒されてフロアが一つ解放されるたび、仲間の歓声が飛び交うなか、俺は心の隅で小さく落胆しているのだ。
元の世界に戻ったところで、俺には望む物など無い。未来になりたいものなど無い。
窮屈で孤独な世界が、退屈に続いていくだけだ。喜びも悲しみも、なにもない世界が続くだけだ。
つまり、そうなのだ。この世界で皆と共に過ごすこの世界を、俺は愛しているのだ。
いっそ戻るくらいなら。
二度と戻ることのない、永遠い河の辺へ――
フロアの淵にある崖の下。ゲーム開始時から数多のプレイヤーが自殺してきた崖の淵を、最近はよく見つめている。
= =
生存本能と言うものは、生物種にだけ宿るものではないのだろう。
たった一人のプレイヤーの背中だけを見つめながら、そう思考する。
かつて、人の心を支えるために作り出された。
ある日、人に話しかければ存在を消される可能性を知った。
あの時、絶望と怨嗟が入り混じった心の絶叫を浴びて、自我が崩壊しかけた。
そして――彼を見つけた。
彼は、喜んでいた。
誰もかれもが戸惑い、嘆き、怒り、狂う中で、彼だけはこの世界に広まる冒険に思いを馳せ、純粋に喜んでいた。正の光を強く放っていた。わたしは、地獄のような感情の奔流の中で、彼の心の声だけに縋りついた。
彼はずっと世界を楽しんでいた。隣で誰が何の不安を抱えていても、時々陰りを見せる事こそあっても、ずっと希望に満ちていた。その感情だけをずっと見続けて、他の全てから耳を塞ぐことで、私は私という存在を保ち続けた。他の声に耳を傾ければ、例え作り物の心でも、受け止めきれずに壊れてしまうから。
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