暁 〜小説投稿サイト〜
幻影想夜
第八夜「ウィステリアの片想い」
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一人は二十代前半の青年で、もう一人はカメラをもった初老の男性だ。
「懐かしい場所だ。君が手紙をくれなかったら、こうやって再び訪れることもなかったろう…。」
 初老の男性はカメラを構え、シャッターを切った。
「あの時よりもキレイだよ…。」
 初老の男性は、そう寂しげに呟いた…。

 藤の下で少女と出会った少年は、この小学校出身の写真家を捜し出した。
 最初は困難を極めたようだ。何せ記録がないのだ。有名な写真家が撮影に来たのなら、少なからず足跡はあるはずだが…。
 学校や町の記録が無理ならと、今度はインターネットで地元出身の写真家を手当たりしだい調べた。その結果、該当者は五名だった。しかし、出身の小学校までは分からず、手紙を出してみたのだった。
 ここまで調べるのに約八年の時を要した。そして一人の写真家から「自分じゃないか?」と返信を受け取り、数年文通をして今に到る。
「君の話しは、妙に説得力があった。この藤の下で呟いたあの言葉は…私とこの藤しか知る筈はないんだからねぇ。」
 そう言って振り返った初老の男性は、何か大切なものを見つけたような喜びに満ちていた。
「あなたはこの話、信じているんですか?」
 青年は尋ねてみる。
「あぁ、信じているさ。これを見てみろ。思い出してなぁ、ネガを引っ張りだして現像したんだ。」
 そう言って一枚の写真を青年に手渡した。
「これは…!」
 青年は、写真と男性を交互に見た。写真家は、その反応を面白がっているようだ…。

「彼女に間違いないですよっ!!」


 そこに写っていたのは、満開の藤の花と、満面の笑みを湛えた…あの少女の姿だった。



       end...




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