第八夜「ウィステリアの片想い」
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「嫌ねぇ、女の子に失礼よ?そんなわけないでしょ?」
むくれてそう言ったが、すぐにその表情は崩れて笑いだした。すると、少年もそれにつられて笑ったのだった。
「ねぇ、こんなとこで何してんの?藤を見てるわけでもなさそうだし、友達を待ってる様にも見えないし…。」
少年は不思議そうに聞いてみた。その少女がいつも藤の下にいたからだ。
「私ね、ここで好きな人を待ってるのよ…。」
少女は恥ずかしそうに少し顔を紅らめて、俯きながらそう答えた。
「へぇっ!好きな人がいるんだ!聞いちゃってもいいのかなぁ?ねぇ、どんな人なの?」
実は少年にも好きな人がいる。同じクラスの女の子。だから少年は、他人の恋愛話にはとても興味を持っていたのだ。
「えっとねぇ、背が高くってとても優しい人なのよ。笑った顔がとても素敵で、私のことを“キレイ”だって、言ってくれたの…。」
少女はニコニコしながら待ち人の話をしている。きっと、誰かに聞いてほしかったんだろう。
「それから私は、あの人がここを通らないかなぁって、いつも気になってここへ来てしまうのよ。」
そう言って微笑む少女は、少年には眩しく見えたことだろう。
その顔を見つめる少年の瞳は、どことなく大人びていた。
「それで、いつもここで遠くを見てたんだね?」
少年は水筒からお茶を出し、そんな少女に手渡した。
「あ、ありがと…。」
少女は、少し恥ずかしそうにお茶を受け取った。
「そうなの。片思いって言うのかしらね?こういうの、遣る瀬無いわよねぇ。こんなに想っても、逢うことが出来ないなんて…。」
少女はただ、お茶に映っている自分の姿を見つめている。
少年はその姿を、とても美しいと思った。藤の花の下、可憐な少女が俯いて座っているこの光景が、幼い少年の脳裏に鮮明に焼き付いた。
好きとか愛しいとかではない。ただ、美しかったのだ。
「で、その人と逢えることあったの?写真の時っ切り?」
少年は思わず聞いてみた。すると…少女は淋しげな笑みを見せて答えた。
「ええ、あの一度だけ…。あの人は、この藤の花の写真を撮りに来たの。ここの小学校の卒業生だって話しで、この藤をとても好いてくれていたのね。今では名の売れた写真家さんみたいだけど…。」
そして少女は、何かを慈しむように手近の藤の幹を撫でた。
―それで…。―
少年は胸の内でそう呟いた。少女が、この藤の下で想い人を待つ理由を、この少年は何と無くではあるが理解した。
「ねぇ、淋しくないの?ここで待っている一人の時間って。」
その問いに、少女はニッコリと笑って答えた。
「もう慣れてしまったわ。今は逆に、ここに来るとあの人を強く思い出せるから…。むしろ楽しいくらいよ。」
その答えを、少年は不思議に思った。いや、この少女の言葉に違和感を
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