第七夜「桜、回想」
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業してゆく。
僕は式の間、涙を見せないよう四苦八苦していた。生徒の中には啜り泣く声も聞こえる。立派な卒業式だな…。
式の後、各クラスで最後のHRがある。僕には直接関係ないので、教務室に戻った。
「本当に良かったですねぇ。」
そう言って、紅茶の入ったカップを渡してくれたのは、家庭科の吉本先生だった。
「ありがとうございます。そうですねぇ。でも、やっぱり少し寂しいですね…。」
窓の外を見た。本来この時期に咲くはずのない桜が満開になっている。
「異常気象なんですけどねぇ。でも何か素敵ですよね?桜の咲き誇る卒業式なんて。生徒達も喜んでるんじゃないでしょうか?」
そう吉本先生が桜を眺めつつ言った。
「そうですね…。」
僕も桜を見つつ、そう返した。
最後の瞬間が迫ってきた。
HRも終わり、各自が一人ずつ去り始めた。しかし、下級生に囲まれ花束を受け取っていたり、逆にボタンをむしり取られている男子生徒もいた。思わず顔が綻んだ。
まぁ、そうでないヤツもいるのだけど、それはそれ、見ないふりだ。
「先生っ!」
卒業して行く声楽部の面々が僕を取り囲んだ。
「桜の前で吹奏楽部と一緒に写真撮るんですっ!一緒にお願いできますか?」
高橋、最後まで部長らしい…。
「分かった。じゃあ、行こう!」
僕は笑って、生徒達と裏庭に出た。
美しい桜の咲き誇る並木道。それをバックに、僕と小山先生を中心にして並んだ。
シャッターのタイマーをセットして、いざっ!
―カシャッ…!―
みんなして一気に脱力し、互いに笑いあった。
―おめでとう、みんな!どこへ行っても忘れないように。みんなは力を合わせて、たくさんの人達の心を動かしたんだよ?―
「先生…ちょっと。」
高橋が傍に来た。
「どうしたんだ?何か用か?」
彼女は少し戸惑って…
「あっちで話したいんですけど…。」
指差す先は、並木道の始まり。一際大きな桜の古木がある場所。
木の下は、むせ返る程の桜の匂い…。
「こんなところで、話しってなんだい?」
そう僕が問うと、彼女は真剣な面持ちで僕を見上げた。
「私、ずっと先生のことが好きでした!」
彼女はそう言って手を差し出した。
―困ったことになったなぁ…―
僕はどこまでも、ただの一教師でしかない。巣立ってゆくとはいえ、教え子の未来を摘むようなマネは出来ない。
「きみの想いは嬉しい。でも、それには答えられない。聡明なきみなら分かってくれるよね?」
僕は彼女の手を握った。
「でもね、今のこの気持ち、忘れないでいろよ?未来は始まったばかりなんだからな…。」
そして…その手を離した。
「ハハッ…、フラれちゃった。でも、正直に言ってくれてありがとう…先生…!」
彼女
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