第七夜「桜、回想」
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に出れるんじゃないか?」
みんながワァッと声を上げた。部活だからなぁ、基本的に好きな人しかいないと言うことだな。
「と、言うことでだ。実は吹奏楽の小山先生には話しを通してあるんだ。文化祭には今までやったバッハとヘンデルをやるから、吹奏楽には曲目を伝えていいか?」
そう言うと、一人の男子生徒が手を挙げた。
「水野、何か別のがやりたいのか?」
言われた男子は立ち上がって言った。
「出来たらア・カペラをやりたいんですが…。」
周囲がドッと騒ぎだす。
「はいはい、みんな静かに。で、やりたい曲は何だ?」
「8声のモテットをやりたいです。基本的に伴奏はチェンバロだけにすれば、ほぼア・カペラの曲ですし…」
モテットか…。バッハばかりやり過ぎたかなぁ…。
「分かったが、かなりの難曲だぞ?夏休み毎日練習通いになってしまうが?みんなはそれでもいいのか?」
周囲には賛同の声が挙がった。
「それは良い考えだと思います。吹奏楽と一緒だと、当然指揮は小山先生が受け持つことになると思いますし、伴奏がチェンバロのみでしたら、バロック式に指揮者を置かずに先生と一緒にステージで歌えます。」
…高橋よ、そんなシンプルに出来るのか?
「まぁ、やってみないと分からないなぁ。チャレンジしてみるか?」
その日、声楽部の部室である第二音楽室は、やたらと賑やかだったという…。
§ § §
夏休みは地獄だった。
冷房のきかないこの第二音楽室は、窓を全て開け放っても意味をなさなかった。生温い風がセミの声を連れて、ヌルッといった感じで入ってくるだけだ…。
そんな中でさえ、生徒は文句も言わず、一人も欠ける事無く練習に来ている。
僕はいつものように、一足早く調律をしに来ていた。何せこの熱気…、弦が歪んでかなわん。代えの弦を買っとかないと、こりゃ切れるなぁ…。
「お早ようございますっ!」
ドアを開けて高橋が入ってきた。
「おお、早いなぁ。まだ昼前だぞ?練習は一時のはずだけど?」
少し頭を上げて高橋を振り返った。
「早めに来ようとしたら早すぎたんですっ!」
ハハッ、高橋らしい…。
僕は取り敢えず調律に戻った。そこへ彼女が「ハイッ、差し入れです。」と、缶紅茶を僕の背中に付けた。
「ヒャッ…!」
僕は半眼になって、高橋を見た。
「ハハハ…ッ、怒んないで下さい!父からの差し入れです。こう暑いと先生も大変だって。みんなの分もありますから。」
高橋はそう言ってクーラーバックを指差した。
「高橋…、お前力持ちだなぁ…。」
「みんなのこと思えば、どうってことないですよ?」
いいヤツだよなぁ、高橋…と、その家族。
「お父さんに“ありがとうございました”と伝えておいてくれよ?」
「はいっ、分かってますっ!」
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