第五夜「LOVERS MOON」
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山陰に陽が落ちゆく頃。一人部屋の中で、紅く染まりゆく世界を見つめていた。
無気力に手にしてるカップから、緋色の湯気が昇っている…。
「なんで…あんなこと言ったんだろうな…?」
自問自答の毎日…ただ、ここに存在するだけの骸。
彼女に否は無かったんだ。でも僕は、自分に素直になることが出来ず、八つ当りのようなセリフを並べ立てたんだ…。
そう…彼女は悪くない。
「電話…しようかな…?」
でも、出来るわけないって…知ってるんだ。もう…あの頃の二人には戻れないんだ。
胸の奥に刺さった小さな棘が、抜けずに疼いている…。少しずつ膿み始め、今ではどす黒く埋没している…。
思い出し続けてる過ぎ去った日々。二人で語った夢。ずっと一緒にいようと言った、彼女の言葉。この手に抱いたその温もり…。
ああ…なんてことをしたんだ!自分のバカさ加減に嫌気がさす。
神様、たった一つの奇跡でいい…どうか時を戻して欲しい…。
六畳一間の小さな部屋。彼女はこの部屋の中…
「なんか狭いね。でもね、この方が一緒にいるって感じるから、私はこの部屋好きよ。」
そう言って微笑んだんだ…。
陽は沈み、夜の帳が降りる。それとともに、空気も少しずつ冷えていった。手の中のカップのように…。
全ての夢が、まるで醒めた幻のように、記憶の中に歪んで見える。
たった一言…そのたった一言が僕を壊した。
一体どうすればいいんだろう…?楽しかった日々は、もう遠い夢幻の遥か彼方…。
この手に握ってた希望は淡雪のように溶けて、指の間から零れ落ちて逝った。
一人がこれ程にも寂しいなんて…。知ってた筈だ。知っていた筈なのに…僕は路を見誤ってしまったんだ。
深い溜め息が洩れた。
窓の向こうには星が煌めいて、僕の心を掻き乱す。
あぁ、思い出させないでくれ…!
ふとした拍子に、掌からカップが落ちた。残り少ない琥珀色の液体が、彼女の選んだカーペットに染み込んでゆく…。
「あぁ…ああっ!」
気が狂いそうだった。
愛してたんだ…愛していたんだ!僕の魂(こころ)は彼女の声を欲しがってる。
―ねぇ、勇司っ!ちょっと来てよっ!ほら、あそこ。カシオペアが綺麗に見えてるよ!―
思い出させないでくれ!あぁっ!この呪縛から解き放ってほしいっ!
―ほらっ!月がまんまるだよ!すっごくキレイッ!ずぅっと二人で見れたらいいねぇ…。―
愛し過ぎたんだ…。ああっ!僕の躰は彼女の温もりを求めて止まない!
代わりなんていやしないんだっ!どうして…っ、どうしてなんだ!!
胸の中に渦巻く風は、僕の全てを切り裂いて、爆発してしまいそうだった。
なんでこんなにも寂しく、悲しんでし
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