第三夜「歩道橋幻影」
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親は痛く悲しんだそうだ。
青年の葬式の後、その両親の元へ二人の人物が訪れた。その二人は亡くなった青年の知人で、彼らは青年が死ぬことになった経緯を語り始めたのだ。
そして…青年が自殺した理由が明るみになったのだ。
彼はこの二人の間で仲裁をしていた。争いの訳は単純なものだったが、両者とも退くことがなかった。
彼は二人とも助けようと奔走した。元来心根の優しかった彼は、人を疑うことを知らなかったのだ。
争いの仲裁をしている間、少しばかり金に困ったことがあった。争っている二人の知人のためのものだったが、そのことは両親にはとても言えなかった。心配をかけたくなかったからだ。
そこで彼は…金融会社を探した。要は街金だ。しかし、彼が借りたところは、普通のところではなかった…。詐欺団体のダミー会社だったのだ。
彼は借金のために借金をさせられ、騙されたことに気付いた時には、既に後の祭り。当然、警察には届けを出しには行ったが、相手にもされず、弁護士に相談しても解決策は見つからなかった。
同じところの堂々巡りの毎日に疲れ果てた彼は…とうとうあの歩道橋から飛び降りたのだ。
* * *
「彼の死後、彼を嘲笑うもんもいた。弱い人間だの、考えなしに行動した結果がこれだなどとな…。しかしな、わしはそうは思わんよ。わしは彼が優しく、暖かな心を持っていたことを知っとるし、彼が他人のために遣ってきた多くのことを覚えとる。彼の死の原因は、もしかしたら、この世間の冷たさなんじゃなかったんだろうかねぇ…。」
僕は、この当時の彼が、自分と同じような状況に置かれていたんだと感じた。
「すみません…その青年の名前って、憶えてらっしゃいますか?」
僕は恐る恐る尋ねてみた…。
「よく憶えとるよ。水落将之くんだ。なにも二十四で逝くこともなかったんだがな…。わしにでも打ち明けてくれれば、どうにかしてやれたかも知れんというのに…。いや、もう遠い昔の話だな…。」
なんということだろう…!多分…彼に間違いない。名前といい、歳といい…僕を救ってくれた彼に合致する。
「もしかして、彼はサバサバした物言いで、よく笑う人だったんでは…?」
「ああ、そうだったよ。君、知ってるのかい?」
この警官の問いへの答えを…僕は持ってるんだろうか…?
僕は親切なこの老警官に一礼すると、交番を飛び出した…!
― 速く、あの歩道橋に行かないと…!―
なぜかそう感じた。この機を逃したら、もう二度と彼には会えないんじゃないかと…。
僕は全力で走ってた。そして、あの歩道橋の階段を一気に駆け登った。
あの時と同じように、人気の無い歩道橋の上。しかし、彼の姿は無かった…。
心臓はバクバクいってる。僕は息を整えながら、ふと車道に視線を落とした
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