第二夜「夜想曲」
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の体験は、三年経った今も鮮明に憶えてる。何度も“夢だったんじゃないか”って思ったけど、あの夜想曲を口遊む度、夢じゃなかったって実感する。
「その曲なんていうの?いつも口遊んでるけど。いい曲よね。」
友人達にそう言われると、何だか不思議な感じがした。だって…この曲は、まだ世界に生まれてない、それも私のための曲なんだから…。
「この曲って、題名も何もないのよ。夢の中で聞いた曲だから。」
人に言われた時は、こんな調子ではぐらかす。けど、“いい曲ね”とか“素敵なメロディね”とか言われると、なんだか嬉しくなった。
ある初秋の夕の迫りくる時刻。私は公園のベンチに腰掛けて、またあの夜想曲を口遊んでいた。
いつ来るか分からない人を待ち続けるのは、案外大変なことだって、今更のように思い知らされる。
時々挫けそうになって、泣きそうになる日もあった。
「あれからもう三年よね…早いものだわ…。」
私は一人、溜め息を洩らした。
風は静かにそよぎ、秋の夕焼けに染まりゆく木々の、色褪せた枯葉を揺らしている…。
その刹那。
「あれ…この旋律…!?」
私はハッとして顔を上げた。
人気のない公園の中央、ちょうど噴水のある一角で、背の高い男性がヴァイオリンを奏でていた。
それも…あの聞き覚えのある曲…そう、あの夜想曲を…!
自分の目と耳を疑った…。正直、あれはもう夢だったって、思いかけていたんだから…。
「……!」
私は口を開くけど、何も言葉にならなかった。
少しの間、あの懐かしい音色を聴いていた。そうするしか出来なかった。
夕日の射す静かな公園の中、ヴァイオリンの音色が響き渡る。その澄んだ響きは、いつまでも続くんだって思った。が、突然その音色は中断された。彼は微笑んで、私の元へ歩み寄って来た。
「やっと見つけた。遅くなってゴメン…。」
そして、一冊の楽譜を私に渡してくれた。
表紙を見ると…そこには…
<夜想曲―僕の大切な人へ捧ぐ―>
そう書かれていた。
私は涙が出そうになった。
「私、もう夢だったんだって…諦めかけてたのに…」
そう言う私の隣へ彼は座り、肩を優しく抱いてくれた。
「逢えてよかった…。」
彼のその言葉に、堪えてた涙が零れてしまった。彼は何も言わずに、そのまま私を抱いていてくれた。
その温もりは優しく…心まで包み込んでくれるようだった…。
「本当に来てくれるなんて…。あれが夢だとしても、幸せだって思う程だった…でも、あなたはこうして来てくれた…。」
私は今、心から幸せだと感じてる。実は、こっちが夢なんじゃないか?って、そう思った。
でも…この温もりは確かに現実のものだった。
「約束通り、あの時言えなかった言葉を伝えた
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