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珈琲
5部分:第五章
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れぞれのその手には珈琲が注がれたカップがある。それを再び飲もうとしていた。
「飲むぜ」
「わかったぜ」
 こうしてまた飲んでみる。今度は最後まで飲んだ。飲み終えてみると不思議と気持ち悪いといった感じは一切ないのであった。
「どうでしたか?」
「ああ、飲んだ後での感想か」
「それだよな」
「はい、そうです」
 二人に対して答える娘であった。
「飲み終えてみて。如何だったでしょうか」
「如何も何もねえよ」
「全くだ」76
 まずは不機嫌そのものの顔になって言葉を返した二人であった。
「とんでもねえ飲み物だぜ」
「っていうか西洋人はこんなのを飲んでるのかよ」
「はい、そうです」
 罵倒に近い言葉を聞いても穏やかな顔のままの娘であった。
「これを。いつも」
「こんなのをいつも飲んでるなんてよ」
「西洋人の舌おかしいだろ」
 顔を見合わせて言うのであった。
「この味はよ」
「そうそう飲めるかよ」
「皆さんそう仰います」
 娘はまた二人の言葉を軽く受け流した。まさに幾ら言われても、立て板に水といった感じで二人の言葉を聞き流しているようにも見えた。
「ですが」
「ですが?」
「何なんだよ。そっからよ」
「いえ、何でもありません」
 娘の笑顔はさながらどんな時にでも笑みを絶やさない商人の娘そのものであった。だが何かを言いたそうにしているのは二人にもわかった。
「またどうしても気になるねえ」
「狐につままれた気分だぜ」
 実際に互いの頬をそれぞれの手でつまんでみる二人だった。しかしそれをしてみてもやはり目は覚めないのであった、それも当然であったが。
「痛いしよお」
「夢じゃねえか」
「ではまたおお来しを」
「ああ、安心しな」
「それはねえからな」
 それぞれの口で答えた二人だった。

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