第一食
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耳にノックが届く。返事をする気力も無く黙ったままだったが、ノックの主も返事を待つつもりもなかったようでその後すぐに入ってきた。
「お、おじい様……」
「その様子だとなおとの絶望具合も容易に想像できる」
仙左衛門はついさっきまでなおとが座っていた椅子に腰掛け、口の中に広がる災厄と戦うえりなを眺めつつ言った。
「お前もこれを毎日耐えられるか心配でな」
「まっ、毎日!? おじい様、それは話が違います!!」
なおとの料理を食べる前に、仙左衛門がえりなに一回だけ食べてやってくれと頼んでいたのだ。子供の、しかも凡人が作った料理を食べた暁に一体どうなってしまうかと思い拒否したえりなだったが、祖父の顔が真剣な上に数少ない頼み事でもあったため渋々承諾して事に至る。
一回だけ、という約束だからこそ引き受けたのに、それを毎日。えりなにとって地獄に等しかった。
が、仙左衛門はえりなの悲痛な悲鳴に聞く耳を貸さず、言及を無視して自分の言葉を繋げる。
「逃れたければ、なおとの成長を促せ。何が悪かったのか、何をしなくてはならないのか、はっきり伝えなさい。それが最短の道だ」
言葉を重ねるほどに仙左衛門の威圧が増していく。幼いころから大人が作った料理に容赦無い酷評を下してきたえりなは、少なくない数の大人の圧力を受けてきたが、こればかりは耐えることは出来なかった。
反対の言葉を言う口は自然と縛られ、小さな手は膝の上で握り締められる。それは怒りからではなく、単純に仙左衛門に圧倒されたからに他ならない。
孫娘を黙殺した仙左衛門は裾から一枚の切れ端を取り出すと、それをえりなの前に置き席を立った。部屋を出る直前に、しゃべることを出来ずにいるえりなに一言告げた。
「文句は全てそこに行って言いなさい」
えりなの眼前に置かれている紙切れには屋敷の内部と思われる簡素な地図が書かれていた。そして一箇所に●が書き込まれていた。毎日屋敷で過ごしているえりなだが、この●が書き込まれている場所に心当たりが無かった。
その場所に一体何なのがあるのかを想像するよりも、これから先この地獄が続くのかと思い辺り絶望するえりなは頭痛を訴える頭を抱えるのだった。
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