第一食
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も然り。一つ一つは料理人として当然のものばかりだが、逆に言えばなおとは基礎を完璧に物にしてみせており、午前から正午に至るまでに習得した全てを復習として表現したのだ。その手際の良さたるや、凡の五歳児がちょっとやそっとで出来るレベルではない。
この厨房に詰め込まれたもの全てが、一年間のなおとだった。すぐ足元に落ちている料理に関する知識が隙間無く書き込まれた紙も、壁じゅうに貼られている料理時の注意や自分に対する戒め文句が書かれた紙も、たった一年で幼児特有の柔和だった手も硬くなったのも、文字通り一年間余さず努力し続けた結果である。
仙左衛門以外の誰かがこの厨房を見れば、部屋中に満ち溢れる何かに呑み込まれてしまうだろう。それだけなおとが真剣になっているのだ。
なおとの報告にうむと頷いた仙左衛門は持ち前の威厳を取り戻し、真剣な顔持ちで見つめてくるなおとを見据える。
「よろしい。今年のうちには応用徹底まで完璧にしなさい」
「はい!」
「それでは続けなさい……と、言いたいところだが、今日からは君に新しい課題を出そうと思う」
遂に本題が来たか。日本の料理界を牛耳る仙左衛門から下される試練とは、と言い渡されるその瞬間を緊張と共に待った。
そして、仙左衛門は瞳をかっと見開いて、幼い少年に下した。
「えりなに美味いと言わせなさい」
一流の料理人でも成せない課題が、凡人のなおとに課されたのだった。そして、えりなのことを良く知るなおとが呆然としている目の前で、威厳ある料理界の魔王は快活に笑って見せた。
「誕生日おめでとう。これが君への誕生日プレゼントだ」
とんだプレゼントがあったものだ。
◆
そして冒頭に戻る。
仙左衛門から与えられた課題をクリアすべく初めて料理を作って出したものの、当然のことながら神の舌を唸らせることは叶わず一蹴されたなおとは、修羅の如き一年を過ごしたという自信もあって淡い幻想を砕かれ、今自分が直面している課題がどれだけ無謀さをかみ締めていた。
今日一番の出来を冷淡な一言で断ぜられとぼとぼと部屋を出て行くなおとの背を無表情で見送ったえりな。その数秒後、盛大に顔を顰め、自分の口元に手を当てる。さながらすぐにでも吐きそうな顔色である。
「想像を絶する不味さにリアクションすら取れなかったわ……」
一流の料理人が出した料理さえ不味いと判断する神の舌は、なおとの料理を乗せた途端悶絶してしまっていた。えりなの独特な感性による味の表現を発することすら叶わないほどのたうち回った神の舌は、とにかく不味いと訴えそのまま力尽きた。ある意味舌が唸った。
まぁまぁな夕食を食べた後にこの始末のため気分最悪のえりなの
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