第一食
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おとが二歳になり、いざ料理の勉強を受けさせたのだが、全くと言っていいほど反響が無かった。つまり、どこまでも凡の域を超えることは無く、才能の欠片すら感じられないものだったのだ。
超一流の料理人の息子だからと言って、それイコール天才少年ということは決して無いのだが、やはり仙左衛門がわざわざ目に付けたほどなのだから我々を驚かす何かを持っているはずだと思い込む彼らはあれこれとなおとの秘めた才能を探すものの、結果として全く無。凡人ここに極めりだった。
包丁を握らせてもすぐ指先を傷つける。食材の目利きもろくに出来ない。調味料の名前や味も覚えられない。挙句の果てに一日前に教えたことを半分以上忘れている。
薙切の苗字を持つ者とは思えないほど平凡である。
それに打って変わって、なおとと同年代のえりな。彼女には神の舌とまで呼ばれる優れた味覚を備えていた。ついこの間なんか目隠しして利き塩を行い、名称を全て言い当てるという離れ業すら披露して見せた。加え料理人としても文句無く、一を教えれば十を学ぶ、天才児に相応しい才能の持ち主である。
なおとがどうなるかは目に見えていた。
最低限の教育は施されてもそれ以上は何もされず、以前までは料理の勉強もあったのに仕舞いには教室に呼ばれることもなくなった。屋敷の中で誰かとすれ違うたびにゴミを見るような目を向けられ、影から聞こえがよしに皮肉られ、食事もえりなとは時間をずらし同席は許されず、出される料理は粗雑な物ばかり。事あるごとにえりなと天秤に掛けられ、解りきっていることなのにわざわざ本人の前で屑と吐かれ。
およそ子供相手にするような態度ではなかった。虐待と言っても過言ではない環境だった。それが三歳のなおとの人生だった。
しかし、なおとは諦めなかった。
勿論周りの大人の対応に自閉症寸前まで精神的に追い込まれたなおとだが、そんな彼を唯一見捨てなかった人がいた。
仙左衛門だった。彼だけはなおとを見捨てなかった。それが養子を引き取った人としての責務だったのか、人情が働いたからなのか、それとも仙左衛門にだけ見えるなおとの才能を気遣ったのかは解らない。ただ、仙左衛門だけはなおとにしっかりとした教育を施し続けた。
「狭い厨房だが、ここは君専用の厨房だ。いついかなる場合でも、ここの使用権は君にある。好きにするといい」
教育だけでなく、料理の勉強も面倒見た。薙切家としては狭い厨房だが一般的な目で見れば十分な厨房だ。それを他でもない、自分のためだけに与えてくれた。追い詰められたなおとにとって、それだけで良かった。それだけがなおとの生きる指標だった。
専用の厨房を与えられた幼いなおとは、それからというものの劇的に変貌した。
どうせこの人たちも僕のことを邪魔
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