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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百六十八話 宣戦布告
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ーエングラム伯とグリューネワルト伯爵夫人の墓です」
ヴァレンシュタイン司令長官は今でもローエングラム伯の事を想っている。ここに来たのも初めてではない筈だ、私は知らないから休日にでも来ているのかもしれない。ローエングラム伯を殺してしまった事を後悔しているのだろうか……。
「墓が有ったのですか?」
幾分声が掠れた。反逆者なのだ、反逆者は墓を持つ事など許されない、遺体を家族に渡す事さえ希だと聞いた。普通は遺棄されるらしい。だがこの墓には二人の名前が書いてあった。
「ええ、陛下にお願いして帝都中央墓地に埋葬する事を許していただきました。この二人は家族が居ませんから……」
家族が居ない?
「では……」
「キルヒアイス准将は両親が健在でしたのでそちらに渡しました。オーベルシュタイン准将は執事が遺体を受け取りました。彼は良い主人だったようです、執事のラーナベルトは遺体を庭に埋めたと聞いています」
ヴァレンシュタイン司令長官が水仙の花束をそれぞれ墓石の上に置いた。
「あの、遺族は罪に問われなかったのですか? 縁座により処罰を受けると聞いていますが……」
不審に思ったのは私だけではないだろう。護衛の兵士達も不思議そうにしている。ちょっとあんた達、警護に身を入れなさい! 身近にいる兵士を睨むと慌てて周囲を警戒し始めた、他の兵士達も。
「そうですね、本来なら遺族も縁座により処罰を受け財産を没収されるのですが伯爵夫人は陛下の寵姫でしたから格別の御温情を以って本人以外には罪を及ばさなかったのです。ですからキルヒアイス准将もオーベルシュタイン准将も本人以外は罪に問われませんでした」
「……」
陛下の格別の御温情、それだけではない筈だ。多分司令長官が陛下にお願いしたに違いない。もしかするとヴェストパーレ男爵夫人、シャフハウゼン子爵夫人も口添えしたのかもしれない。もう一度墓を見た。白い墓石には名前と生年月日、死亡年月日が書いてあるだけだ。伯爵夫人と伯爵の墓にしてはそっけない程に簡素だが墓が有るだけましなのだろう。
「ローエングラム伯の夢は銀河帝国の皇帝になる事、そして宇宙を統一する事でした。だが私が彼の夢を奪ってしまった、だから彼は死んだ……」
司令長官がローエングラム伯の墓を見ている。一体何を思っているのか、何を話しかけているのか……。“奪ってしまった”と言った。“だから死んだ”と言った。ここへ来たのはローエングラム伯への贖罪なのだろうか。司令長官が軽く息を吐いた。
「行きましょうか」
「宜しいのですか?」
「ええ、ローエングラム伯はもう死んだのです、墓に話しかけても返事は無い。その事にようやく気付くとは……。ここに来たのは所詮は自己満足にしか過ぎない」
幾分自嘲が混じった口調だった。胸が締め付けられるような気がした。
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