1部分:第一章
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第一章
信長のクリスマスプレゼント
恐ろしい人物である。誰もがそう言った。
苛烈であり極めて短気であった。一旦怒るとどれだけ残虐なことをするかわからない。その手で側女や足軽を切り捨てたことも一度や二度ではない。
それが織田信長であった。まさに彼は恐怖の象徴であった。
『鳴かぬなら 殺してしまえ 不如帰』
彼のそんな気性を詠ったものである。とかくそうした人間であった。
彼は桶狭間の戦いに勝利を収めてから破竹の勢いで勢力を拡げていった。尾張だけでなく美濃も勢力圏に収めた。近畿も手中に収めていき岐阜を本拠地としてそこから天下に号令せんとしていた。
当然ながら都にいる朝廷や将軍のところにも足しげく通っていた。本拠地である美濃の岐阜から近江に入る時にであった。一人の物乞いを見つけたのである。
「物乞いか」
馬上から最初に見た時はただこう思っただけであった。
物乞いなぞ何処にでもいるのでその時は特に気にも留めなかった。だが彼を二度、三度と見ているうちにだ。妙に思って後ろに続く家臣達に問うたのであった。
「あの物乞いじゃが」
「美濃と近江の境の山中の物乞いですな」
「そうじゃ、あの物乞いじゃ」
こう重臣の一人である林通勝に答えた。老臣である。彼等は道を馬に乗って進んでいる。
「あの物乞いじゃが」
「それがどうされたのですか?」
「物乞いが」
「妙な物乞いじゃな」
信長は首を傾げてこう言ったのだった。物乞いは既に見えなくなっている。山中も遠くになって一行は美濃の道を進んでいた。
「実にのう」
「妙とは」
「何故でしょうか」
今度は柴田勝家が主に問うてきた。織田家において最も剛毅な人物とされている。その彼が太く低い声で主に問うてきたのである。その濃い顔中の髭と逞しい巨体が目立つ。
「それはまた」
「物乞いとは家を持たぬもの」
信長が次に言ったのはこのことだった。
「家をのう」
「家をですか」
「それは確かに」
林も柴田も今の主の言葉にしかと頷いた。
「その通りですが」
「それが何か」
「あの物乞いはいつもあの場所におる」
これまで見てきた彼を思い出しての言葉である。
「いつもじゃな」
「あっ、確かに」
「左様でござる」
林と柴田はまた彼の言葉に頷いた。
「何故かはわかりませぬが」
「何故でござろう」
「ううむ、わからん」
信長はその物乞いに興味を持ったのは間違いなかった。その彼のことを考えながら岐阜に戻った。そうして果物を食べながら考えてた。それと共にある者を呼んだのであった。
「殿、御呼びでしょうか」
「うむ」
明智光秀であった。彼が来たのである。目が冴え実に賢そうな顔をしている。
「そなたに聞きたいことが
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