6部分:第六章
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た。
「侠累殿、お命頂戴致しました」
「見事だ」
侠累は片膝をついてこう述べた。口からも血を出しているが意識は健在であった。
「これだけの腕を持つ男が天下にいようとはな」
「お褒め頂き有り難うございます」
「わしもまた。剣には自信があったが御主程ではなかった」
まだ片膝をついている。だがその顔からは血の気がさらになくなっていく。
「それに出会え、剣を交えたことを最期の誇りにしようぞ」
そこまで言い終えると崩れ落ちた。そしてそのまま息絶えたのであった。
「公よ・・・・・・」
周りの者達は最初は主の死を呆然と見ているだけであった。だがすぐに聶政に顔を向けてきた。
「よくぞここまで成し得たと褒めるべきか」
「だが」
「待て」
ジリジリと迫ろうとする彼等を手で制止する。
「もう私にはやることはない」
「どういうことだ!?」
「やることが終わったということだ」
聶政は言う。
「最早な。だから」
すっとその場を去ろうとする。
「逃げるのか?」
「違う」
呼び止めた兵士の一人にそう返す。
「逃げはしない。ただ」
「ただ?」
「部屋の中では迷惑になるからな。今更だと思うが」
そして部屋を出た。そのまま庭に出る。
「ここならよいな」
「それで何をするつもりだ」
「最期を決める」
聶政の声はこれまでより強いものになっていた。
「最期を!?」
「そうだ。こうしてな」
持っている剣を掲げた。そして。
「言っておく。私には名はない」
まずはこう言った。
「そして何者かは。教えるつもりもない。だから」
「なっ!」
次の瞬間彼等は信じられないものを見た。
聶政は自分の顔に剣をやった。そしてその皮を剥ぎだしたのだ。
「ば、馬鹿な・・・・・・」
「そこまでして・・・・・・」
空の暗雲がさらに深くなり雷の音まで聴こえてきた。彼はその中で自分の皮を剥いでいったのである。
「これで顔はなくなった」
顔の皮を床に捨てて言った。そこには血に塗れた赤いものがあるだけであった。
「そして次は」
「ぬうっ!」
「またしてもか・・・・・・!」
剣でその目をくりぬいていく。右も、左も。遂にはそこには空洞があるだけであった。
最期には膝をつき。そこに剣を入れる。
「これで私が誰か。わかる者はおるまい」
「・・・・・・・・・」
あまりにも壮絶、そして凄惨であった。誰も何も言うことが出来なくなっていた。
「私は何者でもない。そして今あるべきところに還る。それだけだ」
腹を切り己が腸を引きずり出した。それで最期を迎えたのであった。これまでにない凄惨な最期を遂げて。
雷が落ち雨が降り注いでいく。聶政はその中で息絶えたのであった。義を果たして。
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