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黄花一輪
4部分:第四章
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「成し遂げた者はおりません」
「左様ですか」
「だからこそ貴方にお願いしたいのです」
 そして顔を上げて聶政の目を見た。
「人も出しますので」
「いえ」
 だが聶政はその言葉に首を横に振った。
「それはかえってまずいでしょう」
「といいますと」
「相手は王族であり一国の宰相であります」
「はい」
「それだけに警護が厳重ならば人が多いとかえって目立ちます」
「ですが」
「お聞き下さい」
 聶政は続ける。
「目立てば終わりなのです」
 それは彼が最もよくわかっていることであった。
「警戒されれば暗殺は意味がありません。ましてや人が捕らわれればそれで秘密が漏れます。さすれば韓は国をあげて貴方を滅ぼさんとするでしょう」
「それはわかっております」
「それでは尚更です。人は多くてはいけません」
 彼は言い切った。
「一人でなくては。ですから私が」
「行かれるのですか?」
「はい」
 きっとして言い切った。
「その為にも一人で参りました。私に声をかけて下さったのならば是非」
「・・・・・・・・・」
 嚴仲子は暫し何も言えなかった。だがようやく口を開いた。
「わかりました」
 無理を承知で声をかけたのだ。ここは彼を信じることにした。
「それではお願いします」
「はい」
 聶政は頷く。
「必ずや貴方の期待に添えましょう」
「ではまず宴を」
「宜しいのですね」
「はい、私からのせめてもの気持ちです」
 彼もまた人の心を知る者であった。だから聶政の為に宴を開きたいと思ったのだ。
「どうかお受け下さい」
「かっては私を客として扱って頂き、今もまた」
「貴方はそれだけの価値がある方です。御母堂への孝行もまた」
「かたじけのうございます。それでは」
「はい」
「最後に」
 二人は最後の盃を交え合った。それが終わると聶政は衛を去った。衛を去る時は嚴仲子一人が見送った。彼に別れを告げると。二度と振り向くことなく韓へと入るのであった。己が仕事を果たす為に。



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