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黄花一輪
2部分:第二章
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た。
「衛の方で韓において宰相殿と仲違いされておられることは」
「御存知でしたか」
「憚りながら市井の噂で」
 彼は答えた。
「聞いております。若しや」
「そこまでわかっておられるのなら隠すのは失礼にあたりますな」
 この失礼という言葉に聶政は密かに感じるものがあった。だがそれは今は口には出さず嚴仲子を見ていた。
「それではお話しましょう」
 嚴仲子は静かに己のことを述べはじめた。
「その通りです。私はあの男と争っております」
「やはり」
「それが為にあの男とは互いに命を狙い合う仲。それで貴殿に御会いしたのですが。そういうことでしたら」
「お待ち下さい」
 聶政は立ち上がり去ろうとする嚴仲子を呼び止めた。
「どうしても為されたいのですね」
「無論」
 嚴仲子は答えた。
「その為に今こうして生き恥を晒しているのですから」
「わかりました」
 そこまで聞いたうえで頷いた。それから述べた。
「では時が来るまでお待ち下さい」
「時が」
「はい、その時が来ましたら」
 聶政は言う。
「私も思うところがありますので」
「左様ですか」
「はい」
 言葉は少なかったが確かな話であった。それだけで充分であった。
「お話しましょう」
「わかりました。それでは」
「はい」
 話は終わった。聶政が立ち上がった。
「これで」
「いや、お待ち下さい」
 ここで嚴仲子は聶政を呼び止めた。
「何か」
「折角お会いしたのです。今日は」
「ですが今は」
「いえ、それとは別です」
 彼は述べた。
「今は客人として」
「客としてですか」
「はい、宴を催したいのですが」
 聶政を見てこう述べた。
「如何でしょうか」
「宜しいのですか?」
 聶政はそれを聞いて彼に尋ねた。
「私の様なしがない市井の豚殺しに対して」
「何、そんなことは関係ありません」
 だが聶政はそう述べた。
「お会いしたことそのものは縁あってのことです」
 彼は言う。
「その縁に感謝したいのです。それでは駄目でしょうか」
「そういうことでしたら」
 無下に断るのもどうかと思った。それでまた席に着いた。
「宜しくお願いします」
「お聞き頂き感謝します」
「では酒ですな」
「はい、それと馳走と」
 こうして彼は聶政を客、しかも賓客としてもてなしたのであった。宴が終わり聶政が家に帰る時である。土産に何かを手渡そうとした時である。
「さて、何がよいか」
「若し宜しければ」 
 聶政はここではじめて申し出た。
「はい」
「そこにある花を頂けるでしょうか」
「花を!?」
「はい」
 見れば部屋の端に一厘の花が添えられていた。それは黄色い菊の花であった。
「あの花を頂きとうございます」
「しかしあの様な花なぞ」
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