1部分:第一章
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だが。それにより。彼は故郷を失うことになった。すぐに酒屋を後にするとその足で母と姉、そして金を持って国を後にした。
彼は魏を去ると東の斉の国へ家族を連れて入った。そこで牛や豚の屠殺業をやって生計を立てることとなったのであった。同時にそれで母と姉を養い、また自身を仇と狙う者達を避けたのであった。
この頃魏の側にある韓において政争が起こっていた。この時韓において権勢を持っていたのは宰相の侠累であった。その彼と争っていたのが衛の濮陽にいる嚴仲子であったのだ。
この嚴仲子という人物は剛毅な人物であり歯に衣着せることがなかった。それは侠累にも及び政策や過ちに対してもずけずけとものを言った。これがもとで彼と激しく対立することになったのだ。
両者は激しく争ったが結局は宰相である侠累の権勢が勝った。嚴仲子は朝廷において彼を強く批判し、激昂のあまり剣さえ抜いたがこれは他の貴族達に止められた。だがこのことにより彼は韓にはいられなくなった。そして国を出て諸国を流離うこととなったのであった。
「こうなれば」
彼は復讐を誓った。それを誓いながら諸国を渡り歩いた。そして斉に辿り着いた。
ここで彼はある人物の噂を耳にしたのであった。
「聶政!?」
「そうです」
斉にいる知り合いの貴族田縦に迎えられ彼の屋敷で互いに杯を重ねている時にこの名を聞いたのであった。
「腕の立つ男でして。今はこの国の都で牛や豚を殺して生計を立てております」
「牛や豚を!?」
「ええ。元は魏にいたのですが」
「はい」
田縦は杯の中の酒を飲み、干し肉を指でつまみながら話を続ける。聶政もまた同じ様にしていた。まだ明るい時間の筈なのに何故か周りが暗くなったように感じられた。
「いざこざで人を殺しまして。それでここまで逃れてきたのです」
「そうだったのですか」
「体格もよく、並々ならぬ腕の持ち主です」
「どうしてそれを知ったのでしょうか」
嚴仲子は彼に問うた。
「その様なことを」
「刃の使い方を見ればわかります」
それが彼の答えであった。
「ある程度のことは。私も剣の心得はありますから」
「そうなのですか」
「おそらくあれだけの使い手はそうはおりますまい」
そのうえでこう述べてきた。
「素晴らしい剣客です」
「剣客」
その言葉が心に響いた。侠累への報復を諦めていない彼にとってはまさに奇貨の様に思われたのであった。
彼はまた田縦に問うた。
「その方はこの国の都におられるのですよね」
「ええ、確かに」
彼は答えた。
「何なら紹介致しましょうか」
「お願いします」
嚴仲子は頭を下げて頼み込んだ。
「是非共」
「わかりました。それでは」
彼はそれを受けてくれた。
「すぐに参りましょう。宜しいですね」
「はい」
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