2期/ヨハン編
K13 切り刻んであげましょう
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
いなかった。元よりしてもいないが。
「それじゃあお願いしようかな、デス」
「了解。ちょっと待ってね。調のほうを仕上げるから」
調の滑らかな黒髪をヨハンはブラシで掬い、いつものツインテールに結び直した。
「ありがと」
「どういたしまして。――おいで、切歌」
切歌は誘われるままに折り畳みイスに座った。
ヨハンは足元のビニール袋から、さらに包装された袋を出した。中身は薄い緑の、半透明レインコート。調が着ていたパステルピンクとは別物だ。使い回せばいいのにわざわざ二人分調達するのがヨハンらしい。
薄緑のレインコートを前後逆に着せられてから、ブラッシングの感触。
「今日はどのように致しましょうか、お客様」
「――実は、人に髪切ってもらうの初めてデスよ。だから美容師さんにお任せするデス」
「畏まりました」
シャキン…シャキン…
ハサミの音が一定のリズムで鳴る。切るばかりの道具のくせにこんな優しい音が出せるなんて。
お日様はぽかぽか。湖畔の風が優しく切歌の全身に吹き抜ける。梢がさやさやと鳴っている。
調がいて、ヨハンがいる。
まどろんでしまいそうに優しい時間。
次第に切歌はおかしい気分になって、ふふっと笑った。するともう一つ、笑い声が上がる。調だ。調もクスクスと笑っている。よけいにおかしかった。
「終わったよ、切歌」
ヨハンが大きめの手鏡を切歌に渡した。切歌は鏡の中の自分を右から左から見た。
「あんまり変わってないみたいに見えるデス」
「襟足揃えただけだからね。伸び放題で放置しておくよりはよっぽどマシだと自負してるんだけど。それともばっさり短くする?」
「これ以上短いのはいやなのデス」
「それじゃあこれで。お疲れ様でした、お客様」
ヨハンは切歌の後ろに回り、前後逆に着ていたレインコートのボタンを外していき、切歌からそれを脱がせた。レインコートに溜まった髪の毛は、そのまま払って捨てている。
切歌は地べたに座っていた調の横へ行き、自分も座った。
片付けをしていたヨハンを、調はやわらかい目で見つめながら、口を開いた。
「わたしもきりちゃんも普段は伐る側。切られる側になるのは新鮮」
調は切歌が散髪中にまさに考えていたことを言い当てていた。
「そうかい?」
「分かってるくせに。ヨハンはいつもわたしたちに素敵なサプライズをくれる」
「……ひょっとして、ひょっとすると二人とも、あたしを励ましてくれたの?」
「そこんとこは」
「ないしょ」
つまり切歌を元気づけたかったのだと、そのしぐさで充分に分かったから。
切歌は感極まって調とヨハンに飛びついた。驚かれるかと思ったが、調は腕を回して応えて
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ