巻ノ四 海野六郎その五
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「御主、前の大会で優勝したそうじゃな」
「うむ」
そうだとだ、僧侶は満面の笑みで答えた。
「そうじゃ、そして餅も酒も楽しんだ」
「相当飲み食いした様じゃな」
「わしは身体が大きいからのう」
だからだというのだ。
「たらふく飲んで食ったぞ」
「左様か」
「今年もそうする」
「いや、そうはいかぬぞ」
海野は笑って僧侶に返した。
「優勝するのはわしじゃ」
「そう言うのか」
「その通りじゃ、今年優勝するのはわしじゃ」
「ほう、わしに勝つつもりか」
「無論、御主も強い様じゃがわしは相撲では負けたことがない」
自信に満ちた笑みでだ、海野は僧侶にまた言った。
「相手が御主でも勝つぞ」
「そう言うのか、しかしわしも相撲では負け知らず」
「だからか」
「酒と餅はわしのものじゃ」
「待て、優勝ではないのか」
「勝つのもよいが飲み食いの方がいいであろう」
「それが坊主の言うことか」
流石にだ、海野も僧侶のその言葉には呆れた。
「煩悩を抑えようとは思わぬのか」
「破戒僧で寺を追い出されたからのう」
「寺は何処だったのじゃ」
「比叡山じゃ、そこで僧兵をしておったが喧嘩と酒があまりにも過ぎてな」
そのせいで、というのだ。
「遂に追い出されたわ」
「あの寺も前はかなり乱れておったが」
信長が焼き討ちをする前だ、比叡山はとかく乱れ肉食妻帯を行う僧侶までいる始末だった。
「その比叡山をか」
「女色は乱れておらんかったが」
「喧嘩と酒か」
「あと食うことも凄くてな。わしは何でも食うからな」
「その身体を見ればわかるな、しかし比叡山を追い出されてか」
「托鉢なり葬式を行ったりこうして大会で勝って飯を食って生きておる」
僧侶は今の暮らしのことも話した。
「これはこれで結構楽しいぞ」
「托鉢でその大きな身体を養えるのか」
「うむ、釣りに狩りもしてな」
「その身体なら猪でも熊でも倒せそうだな」
「どっちも一捻りじゃ」
実際に簡単に倒せるというのだ。
「わしの力の前にはな」
「そして忍術も使うな」
あえてだ、海野は僧侶にこのことも言ってみせた。
「それも相当じゃな」
「わかるか」
僧侶もだ、海野の今の問いには目の色を変えた。それまで笑っていたそれが鋭くなった。
「そのことが」
「わかるわ、わしも忍じゃからな」
「そうじゃな、御主もな」
「まあ今は相撲じゃからな」
「相撲で勝負をするがな」
「御主、その大柄な身体でもな」
それでもというのだ。
「忍術も極めておるな」
「それなりにな」
「名は何という」
ここでだ、海野は僧侶の名前を問うた。
「一体」
「三好清海入道」
僧侶は海野に笑って答えた。
「それがわしの名じゃ」
「三好清海というか」
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