巻ノ四 海野六郎その一
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巻ノ四 海野六郎
幸村一行は信濃から美濃に入った、その美濃の東に入りだ。
先に進みつつだ、川を前にすると。
海野は幸村にだ、こう願い出た。
「殿、そろそろお昼なので」
「飯をか」
「川魚は如何でしょうか」
「よいな、ではこれからか」
「はい、それがしが獲って来ます」
「ではあれじゃな」
海野の話を聞いて由利が彼に言った。
「釣るのではなく川に入ってか」
「そうじゃ、釣りも得意じゃが」
それ以上にというのだ。
「やはりわしは川に入って獲るのが好きじゃ」
「まさに河童じゃな」
「だからわしは河童じゃ」
自分からだ、海野は笑って由利に答える。
「水の中ではお手のもの、幾らでも深く潜れるし幾らでもいられるぞ」
「息が詰まらぬか」
「人の十倍は潜っていられる」
時間もというのだ。
「平気じゃ、それも」
「つくづく凄い男じゃのう」
「水にかけてはな、ではな」
こうしてだった、海野はその川、結構に広く深さもある川に入りだ、次から次にとだった。
魚を川の中から放り出して来る、どれも大きなものばかりだ。
それを見てだ、穴山も唸った。
「一度も息つぎに出ぬしな」
「それにじゃな」
「うむ、大きな魚ばかりな」
「次から次に出してくるではないか」
由利も唸って言う。
「言う通りな」
「凄いのう」
「まさに河童じゃな」
「水でこれだけ出来る者はおらぬ」
「全くじゃ」
「そうじゃな。れはな」
幸村も海野の魚獲りの様子を見て言う。
「到底出来ぬ」
「並の者には」
「水練の達人にしても」
「これはです」
「相当ですな」
「河童と言うだけはある」
幸村も海野が自ら言った言葉をここで言った。
「魚を獲るのもお手のものか」
「ですな、あっという間にです」
「かなりの魚が出ましたな」
見れば川岸に相当な数の魚が跳ねている、ぴちぴちと音を立てて。そして海野もだった。
川から出て来てだ、幸村に問うた。
「これ位で宜しいでしょうか」
「うむ、むしろ多い位じゃ」
「多い分は干して後で食べましょう」
「いざという時にじゃな」
「それでどうでしょうか」
「そうじゃな、これからどうなるかわからぬ」
道中ではとだ、幸村も海野の言葉に頷く。
「ではな」
「はい、それでは」
「余る分は干してな」
「今食べる分は焼いて」
「そして皆で食しようぞ」
四人でと言うのだった、そしてだった。
一行は幸村が言う通り川岸で魚を細い木に刺したうえで火で炙って食べた、幸村はこの時三人にこう言うのを忘れなかった。
「よく炙るのじゃ」
「魚をですか」
「じっくりと」
「火が通っただけではよくない」
こう言ってだ、幸村
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