2期/ヨハン編
K2 Singers Spark
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舞台袖で控えていた緒川慎次は、翼とマリアのデュエット一曲目の成功を見届け、ひとまず胸を撫で下ろした。
(最初にこの仕事が入った時は、奏さん以外とデュオできるか心配だったけど)
会場のオーディエンスからは割れんばかりの拍手と歓声。
世界の歌姫を相手に一歩も引けを取らず歌い切った翼。
緒川は自分の心配が杞憂だったと知り、つい笑みを浮かべていた。
「――マリアってば。それじゃ協奏じゃなくて競争だよ」
声は斜め後ろから。緒川はふり返った。
いたのは一人の青年。しようがないとばかりに苦笑している。
西洋人らしく、おそらく自分より少し年下程度だろうと緒川は推測した。
「失礼、声に出ましたか」
「あなたは――」
「マリアの付き人の一人です。今夜はマリアがお世話になります」
「こちらこそ。うちの風鳴を素晴らしいステージにお招き頂いて、ありがとうございます」
緒川は青年が差し出す手に応えて握手した。
「さっきのお言葉、差し支えなければどういう意味か教えてもらってもいいですか」
音楽に疎い緒川と違い、今後の翼にプラスになる話を聞けるかもしれない。
「マリアが目指すのは、2年前のツヴァイウィング最後のライブと同じかそれ以上のクオリティなんです」
「2年前の、ライブ――」
緒川には軽く口にはできない話題だ。
ツヴァイウィング、即ち装者2名とオーディエンスのフォニックゲインを利用した“ネフシュタンの鎧”起動実験。
あの時、ネフシュタンが起動したのは、翼と奏が息を完璧に合わせたからこそ。
しかし素人目にも、マリアは翼と歌を重ねるのではなく、ぶつけ合って高めたように見えた。
「無論、エンターテイメントにおいて今夜の彼女たちほど輝いた者はいません。ですが」
「風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴのスタイルは重ならなかった、ですか」
「……予定通りにならなかったのは仕方ありません。生きていればこういうことは往々にある」
その時、会場に繋がるスピーカーから力強い翼の声が聞こえた。
《ああ。それは、世界を変えていける力だ》
きっと「それ」は歌を指すのだろう。「歌は戦いのため」と言って憚らなかった翼を知る緒川としては、実に感慨深い言葉だ。
彼女は着実に前に進んでいる。歌の技術も、心も。
《そして、もう一つ――》
「だから――」
スピーカーから突如として大量の悲鳴が溢れ返った。そして緒川は聴いた。悲鳴の中に「ノイズ」という単語が混じっていたのを。
忌まわしい記憶が蘇る。2年前、大観衆の中に現れたノイズ。彼らを守るために散った天羽奏と遺された翼。
「予定がズレても主役が動きやす
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