記念日
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怖かったのかい?」
頷きかけて途中でやめて、首を振る。怖かったんじゃない。
「かなしい夢、だった…」
毎年当たり前のように誰かが死んで、お葬式に出た。
お葬式に慣れて泣くことがなくなったのはいつ頃からだっただろう。
柩に取りすがって泣き叫ぶ人を、何処か遠くから見るようになったのは、いつからだっただろうか。
「両親の夢?」
飛白の言葉に顔を上げる。そしてゆっくり頷く。
そうしたら涙がまたこぼれてベッドカバーにふたつシミを作った。
徐々に明るくなっていく窓の外に、
帰らなきゃという思いと今日はお休みしてしまいたいという思いがまぜこぜになる。
「おいで、ホットミルクを入れてあげる」
そう手を差し伸べられたので、その手を取ってベッドから出る。
階下に下りるといつもの賑やかさはなくて、窓からは薄明るい朝日が差し込んでいる。
まるで違う場所みたいだ。
いつもの席に座ってぼんやり店内を眺めていると、
「どうぞ、はちみつとブランデー入りのホットミルクだよ」
ふわりと香ばしくて甘い香りのホットミルク。
火傷しないようにそうっと飲むと胸のあたりがほわんとあったかくなる。
「……おいしい」
私がミルクを飲んでる間、飛白は何も言わなかった。
甘いハチミツとブランデーの香りが優しいホットミルクで心を包んでくれる。
一口ごとに心が柔らかくなっていって、少しずつこぼれる涙も少なくなっていく。
ミルクを飲み終える頃には涙もすっかり乾いてた。
最後の一口を飲み干して、ほうっと息をついた。
「少しは元気になれたかい?」
「うん…ありがとう」
ゆっくり顔を上げて笑う。飛白も笑う。その顔が優しく見えて胸のあたりがきゅっとなる。
この顔、好きだな。いつもの人をからかう時の顔と違う、優しい顔……
「だぁぁあああああっ!寝過ごしたーっ!!おいっ!なんで起こさないんだよ!!」
焦った様子で大声を上げて裏子が出てきた。ちょっと髪の毛に寝グセが付いてる。
「ってあれっ!? 起きてたのかっお前!」
私を見た裏子は驚きの声を上げる。そして、じーっと私の顔を覗き込んで。
「おい、飛白になにかされたのか!されたんだろっ!」
キッと飛白を睨みつける。
あー…そういえば泣いたあと顔も洗ってなかった。ひどい顔してそうだなー…
「されてないよ?ちょっと夢見が悪くってうなされたの!」
わたわたと説明するけど、
「じゃあなんで泣きはらした顔してんだよ!」
どうやら飛白が私を泣かせたと思い込んでるみたいだ。
「夢が怖くって泣いちゃったの、えっと、そう!昨日の夢見て怖くて!」
昨日のドッキリの夢を見た。うん、言い訳としては出来が良さそう。
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