第20話
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広宗こうそうに辿り着いた袁紹陣営はさっそく野営地に天幕を準備させた。本来であれば諸侯に挨拶に向かうべきではあるが、袁家は此処に集う諸侯の中で最も格式が高いため、先に設置させた豪華な天幕の中で風と二人、来たる来客に備えていた。
「『曹』の軍旗があったが……、姿が見えなかったな」
「現在曹操軍は城壁の黄巾賊と交戦中なのです〜」
「ほほう、……落とせると思うか?」
「現状では無理ですね〜」
天幕が設置されるまでの間に戦況を見に行っていた風によると、曹操軍は単純な消耗戦を仕掛けているらしい。幾度も城壁に梯子を掛けてはいるが、城壁の上は黄巾で埋め尽くされており一進一退の攻防がなされていた。
「……らしくないな」
私塾の頃から彼女を良く知る袁紹は首を傾げる。奇抜ながも状況を打開する策は考え付いてるはずだ。又、ここ数年訓練させた兵達ならば多少の無茶にも答えられるだろう。
そんな彼女が何故凡戦に甘んじているのだろうか―――
「多分、稟ちゃんの指示ですよ」
「郭嘉の……」
袁紹陣営を離れた郭嘉は曹操の下で仕えていた。出発前の餞別と、短い間であったが客将として雇ってもらった事で、律儀な彼女は手紙で礼と現状を報告していたのだ。
「しかし余りにも――」
「言いたいこと、疑問に思ったことはわかっていますよ〜、でも風からこれだけは言えるのです」
そこで言葉を切った風は、正面から袁紹を見据える。
「彼女の考える策に、無駄なことは何もありません」
「……」
いつになく真剣な表情、風としては真面目な雰囲気を作ろうとしたのだろうが――
「慣れぬことをするでない。頬が震えておるぞ?」
「あう!?」
無理して表情を作っていたのが看過され軽く小突かれてしまう。袁紹としてはちょっとした悪ふざけのつもりだったが、風は瞳に涙をためながら此方を睨んでいる。
……後が怖いかもしれない。
「失礼致します。孫家の孫策様が配下の者と共に、袁紹様へと挨拶に来ておりますが……」
涙目になった風を必死になだめていると、(高級菓子で手打ち) 天幕の前で見張りをしている兵が来客を知らせた。
「……思ったより早かったな」
「孫家の勢力は未だ小さいですから、遅れてお兄さんの機嫌を損ねるわけにはいかないです」
「……」
「ではお兄さん、手筈通りに……」
「うむ」
来客者の名を聞いた二人からは、先ほどのような緩い空気が消えている。
袁術の食客としてこき使われている孫家、独立を目指し、どの諸侯よりも張角の首に固執している。そんな彼女達が一番に袁紹の顔色を気にしていると確信していた二人は、ある『頼み』を用意していた。
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