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武后の罠
2部分:第二章
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たっては最も説明が不要な動機であった。
 皇帝の寵愛を奪われた、これであった。宮中では皇帝の寵愛を得られるかどうかに全てがかかっている。皇帝の正妻である皇后もまたそれは同じだ。ここまでの状況証拠が重なり皇后と淑后に疑いがかかったのだった。
「これは何かの間違いです」6
「その通りです」
 この流れに対して無忌と遂良は果敢に皇帝に対して述べるのだった。先帝である太宗に仕え彼から直々に後を託された二人の重臣達はそれだけに賢明でありかつ剛直だった。彼等は皇帝である高宗に対しても直言して憚らなかった。
「そなた等は違うというのか」
「その通りです」
 二人は堂々とそのことを述べるのであった。皇帝を前にしても全く臆してはいない。
「確かに昭儀様の御子様は殺されました」
「朕の子がな」 
 ここで高宗の顔が怒りで歪む。
「何者かによって殺されたのだ」
「ですがそれは皇后様ではござらぬ」
「証拠はあるのか」
「証拠ですか」
「そうだ」
 彼が重臣達に対して問うのはそれであった。皇帝の座に座りつつ彼等に対して問うていた。
「皇后が殺していないという証拠はあるのか。それはどうか」
「それは」
「ないのだな」
 怒りを隠した顔で二人に言うのだった。
「その証拠は。ならばだ」
「確かに証拠はありませぬ」
 無忌はそれは認めた。
「我々とて宮中の全ては知りませぬ」
「ですから」
 遂良もまたそれは同じであった。
「証拠はありませぬ」
「ですが」
「ですが?」
「先帝は仰いました」
「むっ」
 先帝と聞いて高宗の表情が固まった。他ならぬ彼の父だ。それで表情が強張らない筈がなかった。

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