木曾ノ章
その8
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では全く装備が異なる。射程距離もそもそも違いすぎる。もし近づく前に気付かれたなら一方的に撃たれるに違いない。それに、近づけたところで魚雷がない。
「木曾」
焦る響の声を聞きながら不図、鳳翔さんの事を思い出した。
「全艦撤退の命令を出して木曾!」
「伊隅に直接向かわせれば犠牲者は増えるぞ響」
「だとしてもここで死ぬ気なの」
「それは……敵がこっちに気づいたぞ!」
直後、私の側の海面が大きな水飛沫を上げた。同時にある一つの考えが私の中で浮かんだ。
「全艦撤退、響を魁として珠瀬を目指す。殿は俺が務める。各艦一切の反撃をせずに向かえ。機関全速、逃げるぞ」
了解の言葉を聞きながら、私も一度は皆に連なる。
「木曾、どうするんだ」
天龍の言葉を聞いて、私は後ろを振り返った。私の微かな期待を裏切るように、敵艦隊はこちらを無視し進路を変更していなかった。だから、私は嘘を吐いた。
「敵艦隊は進行速度を下げた。もしかしたらこちらを追撃するつもりかもしれない。時間稼ぎはある程度成功しただろう。追いつかれないように全力で撤退だ」
私は機関出力を絞っていき、皆と距離を離していく。そうして、ある程度離れたことを確認してから反転し、また全速力を出して丙艦隊へと向かった。
◇
「響、先に行きたいんじゃない?」
そう私へ言葉を投げたのは、雷だった。
「何がだい?」
「惚けたって無駄よ。貴方の機関、私達のと違うでしょ? 音が違うし、出力も大分上がってるみたいだし」
「気づいてたんだ」
「まあね」
そう、なんでもないふうに雷は言う。ばれないように気を使っていたつもりだったのだけれど、すっかりお見通しだったか。私は気まずさを感じながら、咄嗟に言い訳を口にした。
「これは、提督が試験的に」
「今はそんな事気にしてる場合じゃないのはわかってるわ」
雷は、私よりずっとこの状況で落ち着いているようだった。私のほうが実戦を多く積んできたのに。
「……ありがとう。先に行って姫の報告をしてくる」
今思えば、きっと木曾もこの事に気づいていたのだ。だから、天龍ではなく私を魁にしたのだろう。
「行ってらっしゃい、響」
けど、もう私がいなくなれば魁は私でなくてもいい。また木曾に譲るべきだろう、そう思って後ろを見た時、木曾の姿はなかった。
息が止まった。だから、この驚きが周りに知れることはなかった。
木曾がどこへ行ったのか容易に推測できる。一人で、あの艦隊へと向かったのだ。あの絶望へと一人で。
「どうしたの響」
怪訝そうな声で尋ねてきた雷に何でもないと返す。いつ木曾が転進したのかは不明だが、今から向かったところでどうしようもない。それに、向かったところで全員死ぬだけだ。それが分かっていたからこそ
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