木曾ノ章
その8
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敵先頭艦が放った砲弾が、一寸足りとも横にずれずに上に僅かに上がった。初めて見る弾道で、私はこれがどういう意味を持つのか暫し理解できなかった。それは頂点を過ぎると今度は急速に視界に広がっていき−−−
「撃てぇ!」
私は叫ぶと同時に体を捻りながら海面に突っ伏した。すぐ真上を砲弾が掠め、余波が髪を揺らした。嫌な汗をかきつつも何とか体勢を整え左腿につけた魚雷を発射する。右を撃っている暇はもうない。
「各艦撤退」
「木曾!」
背後からかけられた言葉に振り返れば、響が私に手を伸ばしていた。既に彼女は魚雷を撃ち尽くし撤退を始めたらしい。私は彼女の手を握り立ち上がり、共に撤退した。
「第六艦隊攻撃中止、繰り返す攻撃中止。敵艦隊は確認できない!」
第六艦隊旗艦からの無線で、私は胸をなでおろした。第五、第二、第三艦隊でなんとか撃滅を果たしたらしい。
その後三十秒程で最上から通信が入った。
「こちら第五艦隊旗艦最上、敵艦隊の撃滅を確認。各艦隊旗艦は被害状況を報告して」
私は艦隊内無線で仲間たちに確認を取った。全員無事とわかって安堵の溜息を吐く。
「こちら第二艦隊旗艦木曾、第二艦隊に負傷者なし。だが装備した魚雷ほぼ全てを撃ち尽くした。補給が必要だ」
「こちら最上了解。第二艦隊は……待て」
一方的に切られた通信に疑問を覚えつつ、私は最上が通信を再びしてくることを待った。右手で魚雷を撫でる。本当ならばこいつも先ほど放たれていたはずだったのだ。
「緊急連絡、新たな敵艦隊発見との報あり。これを丙とする。丙艦隊は乙艦隊と合流し当鎮守府へ接近中との事」
最上からの通信は予期はできたが想像したくはなかったものだった。
「また、乙丙艦隊の到着予想時刻を変更する。これから十分後、二二五〇とする」
続いた言葉を聞いて、私は咄嗟に鎮守府方向へ顔を向けた。今から十分で帰投、補給、戦線復帰は不可能。補給している内に敵艦隊の到着だ。海へ出る前に戦闘は終わっている。
「第二艦隊はどうする?」
「第二艦隊は……第七艦隊の後ろで、最終防衛線を作って」
その言葉は今までのものとは違って、何とか彼女の口から出てきたような声音だった。
「了解」
言うと同時に、無線を艦隊内用に切り替える。この言葉を言うのには、酷く勇気がいた。それと同時に、先の最上に、そして提督に同情した。こんな気持で、部下に命令を出していたのか。
「第二艦隊各艦、よく聞け。俺達は第七艦隊の後ろで最終防衛線を引く。殿を担うぞ」
誰かが、息を呑む音が聞こえた。最終防衛線は、文字通り最後の砦だ。後ろには整備士等非戦力がいる。彼らを砲火に晒すわけにはいかない。故に、私達は撤退することができない。その生命を賭して、戦うことが義務付けられる。
舌が乾き、足は震えた。今まで
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