12.人には人の得手不得手
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巻き方を知らなかったアイズは、最初に銀髪の少年の治療の手伝いを申し出た時に全身ぐるぐる巻きのミイラ男にしかけたという爆笑物の経歴を持っている。しかも、怪我はほんの軽いものだったので患部だけ巻けばよかっただけなのにである。
流石に見かねたアニエスは、以降アイズに色々と教え込んでいる。
余り周囲に表情の変化を見せない二人は、どこか雰囲気が似ていた。
「………それで、アイズ。先ほど兵士団の方から聞いたのですが、ノルエンデに辿り着いたのですか?」
「うん………でも、ノルエンデはもうなかった。直接は見てないけど、村は丸ごと崩落してたって。すごく大きい穴が開いて、そこから瘴気みたいなものが漏れてたって言ってた」
「大穴に、瘴気………」
アニエスの顔色が真剣身を帯びたものに変わる。
一人の少女としてではなく、巫女としての瞳。例えるなら、自分が冒険へと居持ちを切り替えたときと同じようなもの。しかしそこに秘められた意志の大きさは、アイズのそれとは比較にならないほどに強く、深い。
巫女というのは、本来は清貧を基本にに毎日規則正しい生活を送り、男子禁制の神殿でクリスタルに祈りを奉げ続けるものだという。添い遂げるのはクリスタルであり、選ばれた以上は男性との恋愛や結婚は許されないまま一生クリスタルを管理し、後継者の巫女を育て、指名し、そして役割を全うして死を迎え、その魂はクリスタルへと還る。
クリスタル正教の巫女や修道女、騎士団は、死者の霊魂の行先までもが神々の定めたそれとは違う。それがまたアンチ・クリスタリズムに拍車をかけているそうだ。その魂までもを殉教の名の下に捧げなければいけないなど、想像もつかない世界だ。
恋や主義主張に殉じたことのないアイズだったが、彼女の背負う運命がどれほど大きな重圧なのかはなんとなく理解できた。やらないのではなく、許されないのだ。そして本人がそれを受け入れ、神殿を失った今もその使命を背負い続けている。
神殿襲撃と大穴。彼女はどうやら、その二つに関係があると考えているらしい。
思いつめた彼女を見ると、そんなに抱え込まなくてもいいのに、と考えてしまう。
それは奇しくもアイズ自身が仲間から何度も言われたことでもあったが、彼女は今になって皆がそんなことを言った理由を理解した。
――今のアニエスは、いつかその使命に押し潰されてしまいそうなほどに儚い。
「大穴に行きたいの?」
「………分かるのですか?」
「なんとなく。ロキに許可は……?」
「断られました。崩落の可能性があるから安全は確保できないと……でも、見に行かなければなりません」
頑ななまでに意志を曲げないアニエスの姿は、力強く、そしてどこか人間的な脆さがある。
家族を失い、居場所を失い、見知らぬ土地で独りぼっち。それでも
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