3部分:第三章
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かったな。それもじっくりとな」
「わかったよ。じゃあここにいるから」
「ああ。トイレが終わったら戻って来るからな」
そう言ってからトイレに向かう。保次郎は一人だけになった。一人だけになるとただ空や辺りの海や街中を見ているだけだった。それなりに奇麗で気に入る光景であったがそれだけだ。彼はどうしても考えることがなくぼんやりと景色を眺めているだけであった。それだけだった。
しかしその彼のところに。一人の男がやって来た。
「あっ、誰か来たな」
彼は最初こう思っただけであった。
「誰かな、一体」
「おや、若い人か」
やって来たのは小柄な老人だった。白い髪に髭をしておりその顔つきは温厚そうなものである。にこにこと笑っていてその服は和服であった。
「最近若い人がまた増えてきたな。何より何より」
「!?ここによく来られるんですか?」
「左様」
老人は保次郎のその問いににこにことした笑顔のまま頷いてきた。
「ここはな。わしにとっては懐かしい場所でな」
「懐かしいって」
「あれじゃよ」
また言ってきたのであった。
「何度もここには登ったさ」
「何度もですか」
「それこそ何度もな。飽きることのなく」
「飽きなかったんですか」
「いい光景じゃろ」
まずはこう言ってみせてきた。
「遠くまで見えるし。しかも見栄えがいい」
「まあそうですね」
見栄えがいいというのは保次郎も同意だ。彼も気に入ってはいるのだ。
「見ていると」
「どうしたくなるかの」
「そのまま遠くまで行きたくなるような感じですね」
彼はこう答えた。これは偽らざる本音だった。横須賀に住んでいるせいか昔から海には慣れ親しんでおり好きであるのだ。
「ずっと遠くまで」
「海はいいものじゃ」
老人はまた彼に言ってきた。
「奇麗でな。しかし」
「しかし?」
「波が高い時もある」
「ああ、それはそうですね」
これは横須賀に住んでいるからわかる。海というものは決して穏やかなだけではない。時として荒れ狂うこともある。これはよくわかっていたのだ。
「何かあったらすぐに荒れますよね」
「そうじゃ。あの時も」
「あの時も?」
「天気は晴れていたがのう。波は高かったんじゃ」
語る老人の目が細まる。細まりはするのだがそこにある光は強いものだった。保次郎はそのこんとらすとに気付いて不思議な感じを憶えた。
「あの」
「ここに来たから日本のことは知っておるな」
老人は保次郎が問う前に逆に彼の方から問い返してきた。
「まあ少しは」
「少しでも知っているのと知っていないのとでは大違いじゃ」
保次郎に語りながら海に顔を向ける。今横須賀の海は静かに落ち着いている。
「海でも。何でもな」
「何でもですか」
「何も知らないで騒ぐ者達程困っ
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