1部分:第一章
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第一章
三笠
横須賀には一隻の戦艦がある。それは古い戦艦だ。
「これがその戦艦なんだ」
「ああ」
美濃保次郎の横には祖父の保正がいる。祖父は懐かしいものを見る目でその巨大な戦艦を見上げている。今二人はその三笠の前にいるのだ。
「日露戦争で活躍した。これは知ってるな」
「一応はね」
保次郎はこう祖父に答えた。答える言葉にはこれといって灌漑はない。
「まだ残っているとは思わなかったけれど」
「色々あって残ったんだよ」
保正はこう孫に語るのだった。
「色々!?」
「水族館になったり麻雀の場所になったり」
「またそれは随分と色々あったんだね」
保次郎は祖父の言葉を聞いて顔を顰めつつまた三笠を見上げた。黒く巨大でしかもあちこちがゴツゴツしているその外観から水族館や麻雀を想像するのはかなり無理があった。少なくとも彼には想像がつかなかった。
「どう思う?それは」
祖父は保次郎に顔を向けて尋ねてきた。
「それは」
「ちょっとね」
だが彼はその問いに戸惑う顔をするだけであった。複雑な顔でいぶかしみ首を捻る。
「何て言えばいいかわからないよ」
「そうか、わからないか」
「まあ中に入ろう」
とりあえずは祖父にこう提案するのだった。
「今は。それでいいよね」10
「ああ、最初からそのつもりだ」
保正もそれに応える。そしてまずは自分から三笠のラッタルに足をかけるのだった。
「足元に気をつけろよ」
「何で?」
「何でも何も」
気をつけろと言われてキョトンとした顔になる孫に顔を向けてまた言う。
「不安定だからだよ。知らないのか」
「軍艦に入るのってはじめてだし」
「そうだったか。はじめてか」
彼は今の孫の言葉に気付いた。そういえばそうなのだ。
「この船の中に入るのも」
「だからここに来たんだよ」
彼は祖父に続いて先に進みながら答える。やはりラッタルは普通の昇りに比べていささか不安定だ。彼は慎重に足を進めながら祖父に言葉を返すのだった。
「どんなのか見てみたくてね」
「ずっと横須賀に住んでおるのにのう」
「こんな船があるってことも知らなかったよ」
こうも祖父に答えた。
「つい最近までね」
「だったら余計によかったな」
保正は孫の言葉をここまで聞いてあらためて思うのだった。まさかここまで知られていないとは思いもしなかったのだ。
「ここに来たのは」
「一応ネットとか図書館で調べはしたよ」
保次郎も言う。
「日露戦争の頃の戦艦だよね」
「ああ、そうだ」
ラッタルを進みながら孫のその言葉に頷く。
「日本海海戦でな。旗艦だったんだよ」
「百年以上昔の船なんだ」
もうラッタルは終わりに近付いている。間近で見るその黒い
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