1部分:第一章
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身体はさらに大きくなっている。まるで海の上に浮かぶ要塞である。
「そのわりには新しいね」
「整備しているからだよ」
ここで船の中に入る。船の中も百年前の船とは全く思えない内装だ。しかも軍事的色彩もかなり薄まったものになっている。所謂記念館になっている。
「それなりにな。それでも」
「それでも?」
「本当に訳のわからない使い方をされてきた」
彼はその艦の中を進みながら保次郎に話をする。孫はその後について来るだけだった。
「考えられるか?日露戦争に勝った時の船だぞ」
「うん」
「それが水族館や麻雀の場に使われるなぞ」
「またどうしてそうなったの?」
二人は展示室に入る。そこには様々な当時の資料が置かれている。パノラマ模型や日本海海戦の資料が保次郎の目に入った。その中で話をするのだった。
「戦後にな。何もかも」
保正は忌々しげに首を横に振って語る。
「そうなってしまった」
「所謂平和主義ってやつだね」
「この横須賀でも」
そうした団体は多い。自衛隊が何かするとすぐに出て来る。彼等の不思議なところはこの街にはあるならず者国家の工作員もいて自衛隊より遥かに好戦的な行動に従事しているのだがそちらには文句をつけない。いささかアンバランスな平和主義に見受けられる。
「それはあって」
「今でもだよね」
これは保次郎も知っていることだった。横須賀ではそれこそそうした団体は何時でも見られる。ついでに言えば右翼も見られる。
「それは」
「かなり減ったがな。それでもな」
保正は日露戦争の資料のところに来て言う。自然と保次郎も彼について行く。
「いるな、まだまだ」
「まあ僕はあの人達も好きじゃないけれど」
何となくだ。騒いでいるあの様子が好きになれないのだ。
「けれどこうしたところもね。あまり」
「興味がないのか」
「今一つわからないんだよ」
日露戦争のその資料を見てもぼんやりとした言葉であった。
「本当に大変だったのか凄かったのかも。全然」
「それはな」
祖父はそんな孫の姿を見て仕方ない、といった顔を見せてきた。何故か達観したふうになっていた。怒ってはいなかった。
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