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とっておきの御馳走
3部分:第三章
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第三章

「いいな」
「本当にそれで宜しかったのですか?」
「美味い」
 満足した言葉だった。
「馳走じゃ」
「水がですか?」
「そうじゃ、馳走じゃ」
 それだというのだ。
「この上ない馳走じゃ」
「ですがこれはほんの水ですが」  
 老僧はその満足している顔の家光に対して言う。尚老僧は彼が家光、将軍であるとは気付いていない。それは彼が名乗っていないからだ。
「それでもなのですか?」
「欲しい時にそれが来てじゃ」
 その家光の言葉だ。
「満足できたらそれで馳走じゃ。違うか?」
「言われてみればそうですが」
「そういうことじゃ。だからこの水は馳走じゃ」
 その湯飲みを持ちながらの言葉だ。
「最高の馳走じゃ」
「左様ですか」
「うむ、礼を言う」
 彼は満足した顔で話す。
「それではな。失礼した」
「はい、それでは」
「後でこの寺に届け物をしておく」
 満足した顔はそのままだった。
「それではな」
 こうして彼は寺を後にした。そしてその前につなぎ止めてあった自分の馬の縄を外して乗る。少しいったところで後ろから馬が数匹必死に駆けてきた。
「も、申し訳ありません」
「やっと追いつきました」
「上様、何もありませんでしたか」
「遅いぞ」
 小姓達だった。家光はまず彼等にこう言うのだった。
「全く。これが戦ならばどうするのだ」
「申し訳ありません」
「返す言葉もありません」
 彼等もそれを言われると弱い。だが家光の時代以降彼が言うその戦は途絶える。それこそ幕末までそうしたことはなくなり太平が続くのだ。
「それは」
「まあよい。それではじゃ」
 家光は彼等を鷹揚に許しそのうえでまた告げた。
「行くぞ」
「行くとは?」
「何処に」
「決まっておる、まだ駆けるぞ」
 こう言うのである。
「またな」
「えっ、まだですか」
「まだ駆けるのですか」
「そうじゃ。駆けるぞ」
 それをするというのだ。だがここでこうも言うのであった。
「それでじゃ。ここまでに一つ寺の前を通ったな」
「ああ、あの古い寺ですか」
「随分と古い寺でしたな」
「あの寺が何か」
「あの寺に何か贈っておいてくれ」
 言うのはこのことだった。
「それでよいな」
「というと何かあったのですか?」
「茶でも」
「うむ、馳走を貰った」
 家光はここでも満足した笑みを浮かべた。
「その礼じゃ。忘れないようにな」
「畏まりました」
「しかし」
 しかしなのだった。小姓達も問う。
「馳走とは一体」
「どういうことでしょうか」
「それがわかりませんが」
「馳走は馳走じゃ」
 家光はその中身についてはあえて言おうとしない。
「しかし。最高の馳走を貰ったからな」
「最高の馳走とは」
「それ
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