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とっておきの御馳走
2部分:第二章
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第二章

「何時戦になるかわららぬのだぞ」
「それはそうですが」
「あまりにも速過ぎます」
「馬は速く駆けるものだ」
 また言う彼だった。
「それに追いつくのも馬術だぞ」
「は、はい」
「わかりました」
 小姓達は何とか追いつこうとする。しかしであった。それでも中々追いつけずにだ。彼等は遂に家光とはぐれてしまった。家光はそのまま駆けていきだった。気付けばある寺の前にいるのであった。
「むっ、寺か」
 その寺の前で馬を止める。気付けば彼はもう汗だくだった。
「喉が渇いたな。さて」
 ここで馬から降りて寺に入る。そしてこう言うのだった。寺は大きいが古く粗末なものである。鐘もあるがやはり古い。廃寺ではないがどうにも貧しい感じのする寺であった。家光はその寺の中に入ったのである。
「誰かおらぬか?」
 まずは人を呼んだのだ。
「水を所望じゃ。誰かおらぬか」
「誰ですかな?」
 その言葉に返って来た。
「水ですか」
「うむ、水はあるか」
「はい、あります」
 返答は家光にとって望むべきものだった。
「それでは暫くお待ち下さい」
「待たせてもらう」
 家光は鷹揚に応え暫く待った。すると寺の方から一人の老僧が出て来た。髪も髭も剃り顔は皺だらけである。法衣と袈裟を着ていてその手に一杯の湯飲みを持っている。その湯飲みもかなり古いものである。
「むっ、貴方は」
「どうした?」
「お見受けしたところかなり身分の高い方の様ですが」
 家光のその姿を見ての言葉だ。将軍だけあってその身なりはいい。袴も上着も色も仕立てもいいものだ。それを見て言ったのである。
「どうなのでしょうか」
「御坊、私はただ馬でここまで来ただけだ」
 だが家光は微笑んでこう言うのだった。
「武家なのは確かだが来ただけの者にそう問うのは無粋ではないか?」
「左様ですか」
「そうだ、だからそれはいいではないか」
 笑ってそれはいいというのである。
「それはな」
「では今は」
「そうだ。喉が渇いた」
 このことをまた話した。
「水を所望じゃ」
「いえ、それでしたら」
 しかし老僧はここでまた言った。
「茶を用意しますので」
「茶か」
「お武家様に粗末なものを出すわけにはいきません」
 だからだというのである。
「暫しお待ち下さい」
「だからそれはいい」
 しかし家光はここでもいいとしたのだった。
「それはだ。いい」
「宜しいのですか」
「そうだ。わしは喉が渇いておる」
 微笑んでこのことを話す。
「そしてそなたは水を持って来てくれたな」
「はい」
「ではそれを飲ませてもらおう」
 こう言うのであった。
「ここはな」
「水で宜しいのですね?」
「是非な。飲ませてもらう」
「わかりました。それでは」
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