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猫の憂鬱
第4章
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「そうそう、其の田舎だよ。まぁ見事に田んぼしか無いんだ、今は秋だろう?凄く綺麗だったぞ。蜻蛉がいっぱい飛んでて、稲の匂いが、町の匂いだったよ。事件も無いような、人が死ぬってのは、老衰位しか知らんような町。其処の、お巡りさん、其れが、雪村の父親と弟の仕事。親子二代で其の町守ってるんだよ。」
「会ったんですか?」
「ま、一応、な。」
「仰ったんですか?」
「雪村が死んでる事?事件の事?」
「両方、です。」
「云ってない。俺が来たのは、今年初めの事故の事だと思ってたよ。まあ使わせて貰った。」
良かったというべきか、知らせて欲しかったというべきか、なんとも云えず、黙って布団を見た。
「父親は後五年で退職なんだ。今御前が捕まったら、二人は解雇、退職金も無い、今迄真面目に働いて来た人間の人生、然も老人、あんな小さな町だ、悲惨だろうな。もっと悲惨なのは弟だ。大学に行かないで、高校卒業した後直ぐ父親の後追ってるんだ。雪村が家を出て、絶縁状態だったのは、警官になれって云われたから。家出した兄の代わりに弟が警官になってる。尤も、弟の方は昔から父親みたいな警官になりたかったらしいし、其処は問題無いな。」
個室の冷蔵庫の上に置かれる盆から急須を取り、勝手に茶を入れ始めた課長は、コウジに一つ渡し、立った儘茶を飲んだ。
「俺の言いたい事、判るよな?」
「はい…」
「脅迫だなんて思うなよ、此れは内輪の馴れ合いだ。嗚呼いう優さしかないようなお巡り、大好きだ。訛りが強過ぎてなんて云ってるか判らんかったけど。」
「判りました…」
「取り引き成立、有難うな。御前は、しっかりメンタル治せよ。」
紙コップを握り潰した課長はゴミ箱に落とた。其の握り潰され、捨てられた紙コップにコウジは、自分の人生を重ねた。
今日は来客が多い、開いたドアーに、一時で良い、頭を整理する時間が欲しいと思った。
「今日は。」
相手は、白衣を着ていた。だから外科の何かだろうと思ったが、名乗られ、声を出して迄息を吐いた。
「精神科の、菅原と申します。貴方の主治医の、弟です。因みに科捜研の心理担当でもあります。」
世の中には、兄と弟しか関係性が無いのか、と言いたい。
「何か。」
「やだなぁ、警戒しないで下さいよ。仕事しに来ただけですから。」
時一の笑顔は、何時も感情が無い。何も考えない人間なら優しい笑顔と思うが、コウジには唯々、笑顔のラバーマスクを被ったロボットに見えた。
「次は、なんの取り引きなんですか。」
少し、ヒステリックに声を出した。
「貴方、少し混乱してますね。」
「しますよ!」
コウジは持っていた紙コップを、中身が入った状態で時一目掛け横に投げた。ばっと布団に緑色の線が出来、其れは時一の白衣にも付いた。興奮し切る獣のように息を繰り返すコウジを見た儘床に転がる紙
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