第三章
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「それならね」
「それなら?」
「それならといいますと」
「この歌劇場にも契約しているテナーがいるわね」
テナー、つまりテノール歌手がというのだ。
「その人から選んだらいいわ」
「それで宜しいですか?」
「カルローナさんの代役をそうして選んで」
「あの人に比肩する名声の歌手は当歌劇場にはいませんが」
「それでも」
「名声は作るものよ。それにね」
ローリーは後ろで団子にしている黒髪に少し手をやってからまた話した。
「フランコのキャンセルはよくあることでしょ」
「確かに。何かと」
「舞台が気に入らない、演出が気に入らないと」
「あとメトロポリタン歌劇場で歌手と衝突もしましたね」
「そうしたことが多い方ですね」
「そうした人だから」
それでというのだ。
「彼のこうした事態はよくあることだから」
「代役を立てることもですか」
「普通にあるからですか」
「それで、ですか」
「気にせずに」
「代役を選びましょう」
この歌劇場の歌手からというのだ。
「そうしましょう」
「よし、それじゃあ」
「テナーを当歌劇場から選ばさせてもらいますね」
「そうしますね」
「これから」
「私にも参加させて」
歌手を選ぶことをというのだ。
「是非ね」
「はい、わかりました」
「じゃあローリーさんもお願いします」
「是非ですね」
「そうさせてもらいます」
スタッフ達も頷いてだ、そのうえでだった。
ローリーも参加してだ、マウリツィオ役のテナーを選ぶことになった。それでキュリーもローリーの前で歌うことになったが。
そこでだ、ローリーはだった。
キュリーの容姿、そして歌を目で見て耳で聴いてだ、こう言ったのだった。
「第一は彼にしたいわ」
「キュリーですか」
「彼にしますか」
「ここは」
「ええ、フランコの代役はね」
まさにというのだ。
「そうしたいわ」
「僕がフランコ=カルローナの代役になるなんて」
ローリーのその推薦にだ、キュリーは呆然として応えた。
「嘘みたいだよ」
「まあ確かにな」
「ローリーさんの推薦だけれどな」
「これはな」
「かなり凄いことになったな」
「マウリツィオは何度か歌ったことがあるけれど」
この歌劇場においてだ。
「けれどカルローナさんの代役としてね」
「ローリーさんと歌うんだよ」
「あの人の相手役で」
「こんなことになるなんてね」
本当に、というのだった。
「信じられないよ」
「まあとにかくだよ」
「そう決まったから」
「じゃあ頑張ってくれよ」
「カルローナの代役果たしてくれよ」
「うん、歌うからにはね」
プロの歌手としてだ、キュリーは答えた。
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