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ジェヴォダン
第五章

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 ここでだ、彼はあえて言ったのだった。
「毛深い男、まさか」
「言ってみてくれ、思ったことを」
「狼男、ですか」
 この名前をだ、彼は遂に出した。
「そんな筈は」
「ワーウルフだね」
「欧州全体に伝説は残っています」
 このことはだ、豊も否定しなかった。
「確かに。しかし」
「狼男はだね」
「お伽噺の存在ですよね」
「若しくは怪談だね」
「現実にいるとは」
 到底、というのだ。
「思えないですが」
「普通に考えればね、しかし」
「しかしですか」
「黒魔術の話も出ている、しかもだ」
 河原崎はここであえて動物学から離れてだ、欧州全体のことを話した。
「欧州には吸血鬼の話が多い」
「特に東欧に」
「狼男は吸血鬼の亜種だよ、そして吸血鬼はね」
「実際にいるともですね」
「言われてもいるよ」
「ルーマニアですか」
 吸血鬼からだ、豊はこの国を真っ先に連想した。
「あの国等ですね」
「バルカン半島全体に多いよ」
 ルーマニアだけでなく、というのだ。
「吸血鬼の話は」
「そうですか」
「そして欧州全体にね」
 それこそというのだ。
「あるね」
「はい」
「そして吸血鬼の実在を証明する様な細かい資料もあるんだ」
「それは本当ですか!?」
「当時の、いやルイ十五世の時代よりも少し先のね」
 その時代のというのだ。
「神聖ローマ帝国、オーストリアにね」
「その国にですか」
「そう、オーストリア軍がある村の報告を受けて調査して」
「軍隊となると」
 豊も神妙な顔になって述べた。
「信ぴょう性も」
「あるね」
「はい、軍隊はです」
 豊もこう答えた。
「どうしても正確に報告しないといけません」
「その組織性故にね」
「だからですね」
「こうした報告もだよ」
「彼等が見たままの」
「真実を報告したものだよ」
 吸血鬼のそれをというのだ。
「ある村の数々の調査、検死も含めたね」
「じゃあ吸血鬼も」
「彼等はいると結論付けて」
 そのうえでというのだ。
「報告したよ」
「そうですか」
「皇帝にね」
 河原崎はその報告する相手についても言及した。
「わかるね、つまりね」
「嘘の報告は出来ないですね」
「相手が皇帝になるとね」
 彼等の最高司令官であるだけではない、国家元首であり至高の存在だ。神聖ローマ帝国皇帝であるのだ。
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