第三章
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「首、砕いたりとかね」
「野生動物としては」
「ない、狼は獲物の首は切らない」
ここでまた狼の話になった。
「一匹では特にね」
「寄ってたかって噛んで引き裂くことはありますよね」
「それはあるがね」
首は、というのだ。
「そちらはないね」
「じゃあ狼では」
「絶対にない」
河原崎はここで野獣狼説を完全に否定した。
「野生のものではない、とりわけね」
「じゃあ何なのかですね」
「少なくとも野生生物ではないね」
河原崎はこのことも断言した。
「熊でもない」
「熊の習性も感じられませんし」
「こちらもない」
熊もというのだ。
「こうして見ると当時の欧州に生息していた肉食動物の可能性はない」
「オオヤマネコは」
「違うね、それも」
「森から出ていますから」
「そうして襲う、だからね」
「こちらもないですね」
「うん、だから野生動物しかも欧州に生息しているどの生物でもない」
博士はここで野獣の正体をかなり限った。
「間違ってもね」
「じゃあ訓練されたものですか」
「何者かによる」
「その可能性も指摘されていますね」
『誰かの陰謀だったと」
「騒乱を起こそうとする者、殺人を信念としているカルト教団」
ざっとだ、河原崎はこうした説を話に出した。
「そうした説もあるね」
「カルト教団ですか」
「黒魔術の団体とかね」
「そういえば当時のフランスは」
ここで豊も思い出した組織があった、その組織はというと。
「あれでしたね」
「火刑法廷というものがね」
「ルイ十四世の頃にありましたね」
「うん、当時の国王はルイ十五世」
「ルイ十四世の曾孫ですね」
「時代は開いているけれど」
十四世と十五世でだ、一代でもだ。何故かというとルイ十四世の在位は相当に長く十五世のそれも長いものだったからだ。
「それでもね」
「同じ時代と言っていいですから」
「黒魔術の組織もね」
「いてもおかしくはないですね」
「うん、それにね」
河原崎はさらに言った。
「野獣はどう考えても野生動物じゃない」
「普通の狼では特に」
「ないからね」
「それなら野獣の正体は」
ここでだ、豊は怪訝な顔になって言った。
「カルト教団か黒魔術の組織が訓練した」
「イヌ科の動物ではないかというんだね」
「そうでしょうか」
「いや、それは」
「それは?」
「実は最近ね」
河原崎は剣呑な目になり語った。
「奇妙な話を読んだ」
「野獣について」
「森の中で女性達が作業をしていた」
「農作業ですね」
「そこで毛深い男と会ったのだが」
「男、ですか」
「その前後にその森で野獣の目撃が報告された」
豊にこのことを話したのである。
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